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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
今回のゲストは、東北のサンマ漁師との出会いをきっかけとして、「世界の食をもっと楽しくする」というミッションを掲げ、埼玉県の高麗に魚屋を立ち上げ、その後、東京で鮮魚店「sakana bacca」をスタート。さらに、少量多種の鮮魚を扱う、飲食店専用の生鮮品ECサイト「魚ポチ」や人材不足解消のための「フード人材バンク」を立ち上げるなど、「生鮮流通に新しい循環」を生み出す株式会社フーディソン 代表取締役 CEO 山本徹さんです。
漁師との出会いからフーディソンを創業し、埼玉県の高麗に魚屋を創業。バーチャル市場の構想やプラットフォーム「魚ポチ」のサービス提供、東京でスタートした鮮魚店「sakana bacca」での学びや長崎漁協との出会いと連携による新しい流通サービスの戦略など、3回に分けてお話しいただきます。
第1回は、フーディソンを創業した経緯やプラットフォームづくり、埼玉高麗での一号店についてお送りしました。
第2回は、一号店での仕入れや地域の魚文化や胃袋サイズ、「sakana bacca」の取り組みについてお送りしました。
第3回は、次世代の魚市場や既存施設活用のためのソフトウェアの活用、バーチャル市場、フード人材バンクについてお送りします。
この記事の目次
「sakana bacca」東京での再スタート
私が最初に埼玉県で出店したお店は、小売で苦労し、お店を譲ることにしました。しかし、私はその時にもう一度マーケットのある東京で勝負しようと考えていました。そして、東京で「sakana bacca」という鮮魚店を出店することができました。
東京のお店では、普通のスーパーでは手に入らないような魚を提供し、その魚のレア度を、レーダーチャートを使って示すなどしていました。新しいお店でもそれが注目を集めはしたのですが、以前と同様にお客さんは「すごいね」と言いながら、最終的にはイワシチップスを買われるのです。
初めて来たお店で、「小判鮫」のような普段は買わないような珍しい魚が並べられていたとしても、購入されないのも当然で、最初に戻りまずは標準的な魚を並べることにしました。そして、仕入れから販売までの日数を短くし、スーパーよりも鮮度を上げることに努めました。
結果、私たちの店の魚は美味しいという評判を得ることができました。また、季節ごとの新しい魚を積極的に取り入れるなど、魚種の幅も広げていきました。それは、私たちが豊洲市場にも通じており、卸売りとしての機能も持っていることから、鮮度と品質の高さ、商品の品揃えを維持することができているのだと思います。
データと人材で挑む、次世代の魚市場
3,000円や5,000円分の魚セット販売する取り組みを進めるための拠点として、私たちが選んだのは大田市場でした。大田市場は市場としてはあまり注目されていないかもしれませんが、システム化と標準化を実現するためには大田市場のような広大なスペースが必要なのです。スペースが限られている場所では、作業の標準化やシステム化が困難であり、非効率的で限界があります。
私たちは、その広いスペースを活用して、データ活用による業務の効率化を行いました。例えば、魚の重量測定を自動化し、そして、自動で測定されたQRコード付きの魚をレーンで流し、データ処理するシステムを導入しました。しかし、魚の鮮度の状態の判断などは人の目が不可欠ですので、そうしたテクノロジーと人の力を最適に組み合わせることで、より効率的で精度の高いオペレーションを実現しています。
ソフトウェアのアップデートによる既存資産の活用
ボックス販売が顧客層を広げ始めたころ、築地市場からの仕入れも開始し、顧客の拡大に成功しました。そして、これを機にプラットフォームの構築を始めました。当初は少量仕入れのため価格はやや高めでしたが、忙しい飲食店にとってオンラインで簡単に注文できる利便性が認知され、プラットフォーム構築も進んでいきました。
そのプラットフォーム構築において私たちが目指したのは、従来の市場とは異なるバーチャルな市場の創出です。情報がシームレスに繋がるシステムを構築することで、漁師から消費者までが直接繋がり、リアルな市場と比べ、より高い価格で販売できる環境を提供したいと思っていました。
かつて物理的な市場の存在自体が時代遅れだと考えられていたこともありますが、現在では情報の繋がり方こそが最大の課題であると考えるようになりました。ソフトウェアのアップデートにより、既存のハードウェア資産を十分に活用できるのです。
システム化により、市場の機能を外部に開放し、市場に足を運ばなくてもオンラインで情報を得られるようにすることで、業界全体の構造改革を推進したいと思っています。そして、従来の市場関係者とも協力しながら、業界の他のプレイヤーとも競合せず、共存共栄の姿勢で取り組んでいきたいと考えています。
バーチャル空間における魚介類の売買と信頼構築
バーチャルでの売買は、購入者が直接商品を確認することができないため、最初に信頼関係を構築しておく必要があります。産地、サイズ、処理方法などによって味や価格が異なるため、購入者と販売者間での目線の合わせ方が大切になります。
その為、購入者には最初の3回の取引を通じてサービスを理解してもらうことにしています。それにより、購入者はスマホの画面を通じても自分が求める品質の魚介類を判断できるようになります。
また、担当者が購入者の具体的なニーズをヒアリングし、それらに合った商品を提案することで、購入者との信頼関係を築き上げ、スムーズな取引を可能にしています。しかし、このプロセスには担当者の経験が必要です。例えば、「マグロ」で検索すると280種類の商品が表示されるため、購入者がどのようなマグロを求めているのかを把握することが重要になってきます。
専門人材確保の課題をフード人材バンクで解決する
現在、魚介類加工の専門人材の確保は大きな課題です。水産業や加工業の求人媒体も限られているため、適切な人材を見つけるのが非常に難しい状況です。同時に、食品加工業界全体が人手不足に直面しています。
私たちは、この課題の解決策として「フード人材バンク」というサービスを立ち上げました。このアイデアは、前職での医療系人材紹介の経験が生かされたものです。
フード人材バンクは、最初は「サカナ人材バンク」としてスタートしました。スーパーマーケット業界では特に不足しているのが魚介類、肉、惣菜関連の人材で、私たちはまず魚介類の人材を対象としたサカナ人材サービスを立ち上げ、その後「ミート人材バンク」など、スーパーマーケットを総合的にサポートするサービスに発展させ、現在では全国の40%以上のスーパーマーケットと取引しているのではないかと思います。
フード人材バンクでは、ウェブマーケティングを活用して求職者を集め、漁業関係者向けのリスティング広告などを通じて、日本全国から人材を探します。日本全国を対象にすることで、大きな求職者プールから適切な人材を見つけ出すことが可能になっています。このようにしてフード人材バンクは、新店舗の出店計画や事業の拡大を支える重要な役割を担っています。
また、フード人材バンクには、業界に新しい風を吹き込もうとしている我々のビジョンに共感し、その世界観に賛同する人材が集まってきていて、私たちは、生鮮流通業界に新しい循環を作り出すことを目指しています。
魚に最適化した物流システムがフーディソンの強み
私たちのお店では、産地から市場に来て、その日のうちに「sakana bacca」に並びます。一方、一般的なスーパーのチェーン店などでは、一度物流センターに集約されて、次の日にお店に届くことになります。一般的なスーパーは魚専門の物流の仕組みがありませんから、どうしても鮮度が保てなくなります。
今、魚食離れということが言われていますが、それは、そもそも魚軸で物流が最適化されていませんので、鮮度が落ちてしまっていることが理由の一つで、さらに、肉の方使い勝手の良さに負けてしまっているからだと思います。
だからこそ、私たちはきちんと品質をコントロールし、その商品に最適な物流により販売したいと考えています。
私たちは、魚を切り身にし、刺し身にし、そして最後に惣菜にして、それでも売れなかったら最終的に廃棄というプロセスを経ていますが、このような手間をかけることができるお店であることが、私たちの強みであり、お客様にとっての利点でもあると思います。