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お店ラジオ 2024/04/11 2024/04/11

地域の魚文化とマーケット

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。

今回のゲストは、東北のサンマ漁師との出会いをきっかけとして、「世界の食をもっと楽しくする」というミッションを掲げ、埼玉県の高麗に魚屋を立ち上げ、その後、東京で鮮魚店「sakana bacca」をスタート。さらに、少量多種の鮮魚を扱う、飲食店専用の生鮮品ECサイト「魚ポチ」や人材不足解消のための「フード人材バンク」を立ち上げるなど、「生鮮流通に新しい循環」を生み出す株式会社フーディソン 代表取締役 CEO 山本徹さんです。

漁師との出会いからフーディソンを創業し、埼玉県の高麗に魚屋を創業。バーチャル市場の構想やプラットフォーム「魚ポチ」のサービス提供、東京でスタートした鮮魚店「sakana bacca」での学びや長崎漁協との出会いと連携による新しい流通サービスの戦略など、3回に分けてお話しいただきます。

第1回は、フーディソンを創業した経緯やプラットフォームづくり、埼玉高麗での一号店についてお送りしました。
第2回は、一号店での仕入れや地域の魚文化や胃袋サイズ、「sakana bacca」の取り組みについてお送りします。

 

この記事の目次

 

埼玉での仕入れの難しさと工夫

開店後、私たちは地元の市場で仕入れを始めましたが、やがて、利用していたその市場は規模が小さいと感じるようになりました。その市場は、さまざまな市場を経由して商品が届きますが、大きな買い手が周辺になく、自ら積極的に魚を集める努力をしていない市場だったのです。

そこで、より規模の大きい川越市場で仕入れることにしました。川越市場では、築地市場内の会社の子会社と取引を行い、店舗にはさまざまな種類の魚が並ぶようになりました。そして、その後、築地市場とも取引を行うことができるようになりました。

築地市場は、日本で最も高価な魚が集まりやすい市場であり、良質な魚が集まることで知られています。そこで売れた魚はそのまま流通し、売れ残った魚が周辺の市場に流されるシステムになっていることも、そのときに知りました。

そのような市場での仕入れのほかにも、独自の仕入れにも挑戦しました。具体的には、他のお店との差別化を図るため、横須賀からその日に水揚げされた魚を購入し、トラックで運ぶといった方法です。

 

地域の魚文化と市場の難しさ

しかし、横須賀から運んだ魚は売れませんでした。長時間の輸送コストに見合わない売上しか上げられないことが多く、大きな赤字を出してしまうこともありました。それは、埼玉県の高麗には鮮魚店がほとんどなく、魚文化もあまり根付いていないことが理由でした。

お客様には店内に並んだ魚を見て「面白いね」と言っていただけるものの、隣で売られているイワシせんべいを購入して帰られるような状況です。お客様はまるで水族館に訪れたかのようで、魚を捌いたこともないお客さんも多く、地域の魚文化を育て、顧客層の理解を深める必要を感じました。

そして、産地直送の取り組みを一時的に諦め、既にある商品でお客様の認知を高める方向にシフトしました。しかし、小売店はお店のある地域に購入のボリュームがないと難しいのです。

購入のボリュームは、人口と胃袋のサイズで決まりますから、私たちのお店の場合は成功と現実に大きなギャップがあったのです。これは、当時の私たちの実力不足と市場のサイズが小さいという二重の問題から来ており、その場所で持続可能なビジネスを展開するのは難しいと判断しました。

私たちは海の無い埼玉県で鮮魚店をゼロから立ち上げたものの、仕入れの難しさやマーケットの規模、ビジネスモデルの不一致などで、結果として、開店から3ヶ月ほどでそのお店を友人に売却することになりました。

 

「sakana bacca」の出店とお客様と共に成長する魚レベル

埼玉での経験から得られたものもあります。魚屋として運営した期間は、貴重な経験となり、また、「築地で取引先を開拓できた」ことは、大きな実績で、今後のビジネス展開においても貴重な財産となりました。

その後、私たちは、埼玉県での魚屋経営の経験を活かし、東京で「sakana bacca」という新しい魚屋を出店する計画を立てました。
しかし、東京で魚屋を新規に開業するのは困難でした。多くの人々が魚屋に対して持つ、床が水浸しになり、大声で叫ぶイメージが原因で、物件のオーナーから敬遠されてしまうのです。しかし、そんな時に、幸運にも友人がタイミングよく出店可能な場所を提供してくれ、私たちは中目黒にお店を構えることができました。

魚屋を経営していると、お客様の魚レベルが毎年上がっていくのを実感します。最初はマグロ丼やお刺身のような馴染み深い商品から興味を持ち始めるお客様が、魚レベルが上がるにつれ、より珍しい魚種にも興味を示すようになります。中目黒の店舗では小判鮫を販売することもあります。

最初の頃はお客様に商品を説明しながら販売しますが、時間が経つにつれてお客様の方から、「小判鮫はありますか?」といったリクエストをされるようになります。こうして、お客様の魚レベルは徐々に上がっていきますので、鮮魚店を継続的に運営する為には、お客様だけでなく私たちも成長する必要があると感じています。

 

埼玉県での経験が東京での成功に繋がる

東京での再スタートは、埼玉での経験があったからこそ実現できたと言えます。そのリアルな経験がなければ、次のステップに進むことは難しかったと思います。実際に魚屋を経営した経験があるのと、ないのとでは相手の信頼が全く異なり、経験がなければ相手にもしてもらえなかったと思います。

特に、市場を通じて産地と連絡を取る際には、過去に実際に魚屋を経営していたという実績が信頼を得る上で重要でした。例えば、長崎漁連という長崎の漁協団体とのつながりも、過去に魚屋を経営していた実績があったからこそ得られたものです。実績を持って「埼玉県で魚屋をやっていたのですが、売ってもらえませんか?」と尋ねることと、「魚屋をやろうと思っていますが、売ってもらえませんか?」と尋ねることでは、相手からの信頼度が全く異なります。

取引は信用取引であり、掛け払いなどもあります。また、漁業関係者は職人気質であり、古い業界の特性上、新参者に対して慎重な姿勢を取る場合もあると思います。そのため、実績により産地と直接繋がることができたというのは、私たちにとって大きな一歩でした。

 

ワクワクする魚セットで飲食店を開拓

東京での新たな挑戦では、以前の小売業で築いた関係性を活かし、長崎県漁連と協力して、長崎で水揚げされた鮮度の高い魚をセット販売する事業を展開しました。3,000円や5,000円分の魚セットを、正月の福袋のような形で提供するこのアイデアは、漁師にとってはその日に水揚げされた魚を迅速に市場に出すメリットがあり、飲食店側には届く魚の種類が事前に分からないというワクワク感と、新鮮な魚を手頃な価格で提供できる点が魅力でした。
この取り組みは、技術力のある多くの飲食店から支持を受け、飲食店の顧客基盤を広げる重要な手段となりました。これは、余った魚を効率的に売りたいというニーズがあったために実現したものでした。

このプロジェクトに取り組むため、日本全国の漁協などに営業しましたが、東日本の漁港では大型の漁船による大量の水揚げがあり、特にカツオやマグロのような大量販売を希望する声が多く、小規模な注文では相手にされませんでした。

一方で、西日本の長崎では、東京へのマーケット開拓が進んでおらず、東京での販売を希望するニーズがありました。私たちが販売を手がけると提案すると承諾してくださり、連携が進んでいきました。

最初の納品では、3,000円分の商品を2,000円で販売するという価格戦略を漁協と共に展開しました。このアプローチにより、多くの顧客を獲得し、最終的には500〜600軒の飲食店に対して商品を販売することができました。メインとなる魚は築地から調達し、メインの商品は通常通りに販売し、サブのセット商品と合わせて売ることで、多くの飲食店に利用していただけるようになり、商品の種類も増えていくことで売上も増加していきました。

第2回は、一号店での仕入れや地域の魚文化や胃袋サイズ、「sakana bacca」の取り組みについてお送りしました。

第3回は、次世代の魚市場や既存施設活用のためのソフトウェアの活用、バーチャル市場、フード人材バンクについてお送りします。

 

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