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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、業界注目の専門居酒屋「肉汁餃子のダダンダン」を運営する株式会社NATTY SWANKY(ナッティースワンキー)の代表取締役、井石裕二さんです。開店初日から行列を作ってメディアにも取り上げられた、そのアイデアのルーツとはなんなのか。また、100店舗以上に拡大する過程でどのようなことを考えていたのか、これからどうしていくつもりなのか、その緻密な戦略を余すことなくお聞きしました。
井石さんのお話をご紹介する1回目は、井石さんのダンダダン創業初期までのお話です。餃子に目をつけたきっかけや、オープンしてからの苦労もご紹介していきます。
この記事の目次
- こだわり餃子をつまみにビールを飲める居酒屋「肉汁餃子のダダンダン」
- サラリーマンから一念発起してダイニングバーを作り、10年目で方向転換
- “日本人の遠慮”と“餃子”に隠れたニーズに勝機を見出す
- オープン当初から行列、しかし予想外の苦境
- 「日本一自分が食べたい餃子」を突き詰めたレシピ作り
- モンドセレクション金賞、世界から認められた冷凍生餃子
こだわり餃子をつまみにビールを飲める居酒屋「肉汁餃子のダダンダン」
株式会社NATTY SWANKYは、「肉汁餃子のダンダダン」というお店を展開している会社です。ダンダダンはこだわりの餃子を中心とした様々なメニューをつまみにお酒を楽しむことができ、全国に109店舗を展開しています。ダンダダンという名前は「ホップ・ステップ・ジャンプ」のように成長していくイメージで、一発で覚えてもらえるようなインパクトのあるものを、と考えて名付けました。
元々は「肉汁餃子製作所ダンダダン酒場」という「酒場」を含んだ名前だったのですが、これでは食事だけが目的のお客さんが来づらくなってしまう可能性があると思い、改名しました。
サラリーマンから一念発起してダイニングバーを作り、10年目で方向転換
大学を3ヶ月ほどで辞めてフリーターを2年やった後に、IT関連の会社で6年間サラリーマンをやっていました。その仕事で独立しようと考えていたのですが、「飲食の方が面白そう」と思い、一念発起して飲食店を始めることにしました。自分と相方の貯金を合わせても足りず、さらに借入をして、なんとか1000万円をかき集めて、念願のお店をオープンします。
そこで立ち上げたのが「スタボン」という焼酎メインのダイニングバーです。スタボンというのは英語のstubborn(頑固)が由来で、素材やお酒にこだわる頑固酒場、というイメージです。でもスタボンはよくない場所に出してしまったことで認知に時間がかかってしまいました。さらに飲食店を甘く見ていたこともあって、初めはなかなか利益が出なくて大変でした。
苦労しながらも徐々に修正していき、なんとかスタボンを10年ほどやっていると、徐々にダイニングバーの客層の狭さが気になり始めました。ダイニングバーに来るのはほとんどが20代から30代の独身で、家族がいない分自由にお金が使えるような人ばかりだったのです。せっかく街には0歳から100歳くらいまでの人たちが住んでいるのだから、もう少しいろんな人に使ってもらえるお店を作ってみたい、むしろそういうお店でないと広がっていかないんじゃないかなと思いました。そんなことをいろいろと考えながら、最終的に「肉汁餃子のダンダダン」を立ち上げることにしたんです。
“日本人の遠慮”と“餃子”に隠れたニーズに勝機を見出す
なぜ餃子を選んだのかというと、餃子を好きな人はたくさんいるのに、意外と餃子をしっかり食べるシーンは少ない、ということに気がついたからです。中華料理屋でもラーメン屋でも、餃子を単体で食べることはほとんどありません。中華料理屋やラーメン屋でも、餃子とビールだけで楽しむというのも後ろめたくて、ラーメンやチャーハンなど他のメニューも注文することになります。これが、日本人の“遠慮している”点なのです。
しかし、餃子とビールの相性が良いことはみんな知っています。だとすれば、“餃子をつまみにしながらビールを飲みながらゆっくりできるお店“にはニーズがあるのではないかと考えました。このコンセプトであれば、餃子のイメージの強い王将さんなどとも競合しないのです。
オープン当初から行列、しかし予想外の苦境
この業態が成功しそうだ、と思ったのはオープン初日からでした。ポスティングやチラシ配り程度のプロモーションしかしていなかったにも関わらず、初日から行列が絶えないお店になったのです。この集客成功の要因は、やはり、美味しい餃子が食べられる居酒屋というのが珍しかったというのがあるのではないでしょうか。また、お客様にとっても、餃子ならよほどのことがない限り不味いということもなさそうですし、失敗してもたかが1000円いくかいかないかの出費ですから、試すハードルが低かったということもあるかもしれません。
この行列が話題になって、メディアでも取り上げていただきました。さらに鉄道会社から「高架下に出店しないか」というお話もいただけて、かなり順調だったと思います。とんとん拍子で2店舗目を出店する運びとなっていました。
キャッシュはないものの、「工事代は2.3ヶ月待ってください。そうすればなんとかなります」などと交渉をし、素早く出店しようとしていました。かなり、勝負をかけた決断でした。しかしそんな2店舗目をオープンする直前、東日本大震災が起こってしまいました。日本全国が自粛ムードになっていたこともあり、オープンは延期することになりました。二ヶ月ほどの延期を経て無事にオープンすることができたのですが、キャッシュが全くなく、借入もできないような状態だったので、この時期はかなり苦しかったです。
「日本一自分が食べたい餃子」を突き詰めたレシピ作り
メイン商品の餃子に関しては、相方がラーメン屋で修行していたので、ノウハウがありました。その餃子は評判もよかったので、それをベースに「日本一自分が食べたい餃子」を作ろうと決めて1年以上をかけて開発したのが、ダンダダンの肉汁餃子です。ちなみに「肉汁餃子」という言葉は、この時に私が作りました。
とことん突き詰めたものなので、皮・中身・そのバランスまで全てをこだわっています。この餃子の美味しさを感じてもらうために、お客さんには「何もつけなくても食べられます」と説明しています。
普通の日本人は、小皿に醤油と酢とラー油を準備して、餃子にそのタレをたっぷりつけるのですが、そうして食べてもほぼタレの味しかしないはずです。この現状から、あえてそのまま食べていただければ、他のお店との差別化ができるのではないかと考えました。
モンドセレクション金賞、世界から認められた冷凍生餃子
そしてこの肉汁餃子をご家庭でも食べていただきたいという思いで作った「冷凍生餃子」は、今年のモンドセレクションで金賞を受賞することができました。モンドセレクションは、ベルギーの国際品質研究機関で、世界100カ国から集まった3000以上の商品を毎年審査しています。ここで賞を受賞するということは、国際的な評価基準を満たしており、世界に通用する商品であることの証明であるといえます。
この冷凍生餃子のテイクアウトはコロナ前からやっていたので、コロナ禍においてもスムーズに販売することができました。テイクアウトをやっていなかった普通の居酒屋がいきなりテイクアウトを始めるのは難しいので、これにはかなり助けられました。