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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、投資家や起業家が集まるバーとして有名な「awabar」の経営者、小笠原治さんです。小笠原さんはawabarを経営するほか、モノづくりの場を立ち上げたり大学で教えたり投資事業をしたりと、マルチに活躍されています。小笠原さんのさまざまな仕事の話を聞くことで、小笠原さんの思考法や経営哲学について触れることができました。
小笠原さんのお話を紹介する最終回は、awabarを経営するルールをお聞きしました。そのお話から、小笠原さんの考える経営の本質を伺い知ることができました。
この記事の目次
awabarを経営するためのルール
awabarを経営するにはいくつかルールがあります。まずは場所と店舗です。場所は1階路面で、できれば10坪以下のなるべく狭いところでやってください。店の前に少しオープンスペースがあればよりベターです。オープンスペースがあれば、そこから店の中が覗けて、だれが店の中にいるかがわかるからです。ロゴ関係は守ってください。ロゴを崩されたら、どこの店なのかわからなくなるからです。ネオンも同様です。
近所の店と仲良くするために
店内で火は使わないでください。火がダメな理由はいくつかありますが、大きな理由は、食べるものを周りのお店から頼んでもらうためです。六本木のawabarだと、隣のステーキ屋さんからお肉を頼むお客さんがたくさんいます。そうすることで、awabarは周りの店と仲良くなることができます。
もうひとつの理由が、食べ物を自分たちで作らないので、店を清潔に保つのが容易になることです。いまはとくにコロナ禍ですから、食べ物を扱わないことで、スタッフの手間を大きくはぶくことができています。
スタッフに求めること
スタッフには、たとえば、カクテルを混ぜるのは2種類までにするなど、覚えるのに手間がかかることはさせないようにしています。その代わり、スタッフに求めているのは、お客さんのことをよく知ること、知っているお客さん同士を紹介してもらうことです。スタッフ自身がお客さんをもてなすことまでは求めていません。だから、それほど高いコミュニケーションスキルはいらないと思います。
スタッフがお客さん同士を引き合わせることで、awabarでは、客単価を上げることができています。開店当初、目指していた客単価は1800円でしたが、当時のawabarでは、40%のお客さんが2杯で帰っていたので、客単価は1400円にしかなりませんでした。でもスタッフがお客さん同士を紹介するようになると、4杯目まで行く可能性が50%ぐらいになりました。いまのawabarの客単価は、2200~2400円になっています。飲み物しか出していないのに、鳥貴族より高いそうです。
なるべくキャッシュレスにしよう
お客さんの数を30分単位で記録するのもルールです。それを記録すると、その地域のお客さんの入り方が見えてきますし、スタッフのシフトにも生かすことができます。意外と大事なのが、貸切はしないということです。イベントをする場合は、一般的な人も参加可能な形にするのが原則です。イベントは、一般の人を巻き込んだ方が盛り上がります。一般の人からの代金の受け取りについては、全部店側で対応するようにしています。
経営で重要なのは、なるべくキャッシュレスにすることです。現金の管理は大変ですから、現金管理を止めれば、人件費がかなり浮きます。閉店後、レジの収支が合わなくて困ることもなくなります。それに、現金を扱っていると、だれかが現金を抜いてしまう可能性を排除できません。これは経営側が対応すべき問題なのです。その日食べるものに困っている人に、お金を扱わせてはいけないのです。
いま、一部のパチンコ店では、首にカメラをぶら下げさせて、現金管理をしているそうですが、それは間違ったデジタル化です。最初から現金を扱わない方が、経営側にとっても働く側にとっても、ストレスがなくなるのは間違いありません。
椅子は置かない
立ち飲みであることは絶対で、お客さんを座らせないことがルールです。座ってしまうと、お客さんはなかなか動かなくなり、同じ人とばかりしゃべることになります。うちではそうではなく、できるだけ気軽にスイッチして、いろいろな人と交流してもらうために、立ち飲みを絶対のルールにしています。
立ち飲みで椅子を禁止すると、回転率を考える必要もなくなります。お客さん同士でしゃべっていて、一方の人が嫌そうにしていたら、スタッフが、だれかに紹介する体で、その人を移すこともさせています。そういうことも立ち飲みだからできることです。awabarはどうしてもお客さん同士が密になる商売ですから、コロナでは大きな影響を受けました。でも、密にならないやり方は、awabarのやり方ではありません。だからコロナ禍においては、ほとんど店を閉めることになりました。
awabarはコミュニケーションの場であり、そのやり方は、ロンドンのパブの文化と通じるところがあります。awabarでいろいろな人たちが混じり合うことで、いろいろなことが生まれてきます。やはり、混じり合わないと面白くありません。いろいろなものが混じり合う場を作ること。それは、僕の手掛けるさまざまなビジネスに一貫する、原則のひとつです。
お店とは地域の色が出るもの
お店というのは、地域の特色が色濃く出るものだと思います。地域の特色が出ない店は面白くありません。日本の地方の国道沿いの、チェーン店ばかりという状態がそれです。
マクロで見たら、それが日本という地域なのかもしれませんが、そういう店のあり方は、昭和の急成長した時代にマッチしたものに過ぎず、いまは合わなくなったと思います。いまは、もっと地域地域、ミクロに見ながら、その地域の特色をどう出していくのか、どう伸ばすかを、お店としては考えるべきだと思います。