個人事業主・フリーランスが事業を開業する際に税務署に提出することになるのが、開業届です。初めて開業をする方であれば、開業届を提出する際に必要となる書類や手続き方法など、分からないことが多いのではないでしょうか。開業および開業届にかかる費用についても、気になるところです。
この記事では、これから開業を予定している方に向けて、開業届の手続きについて解説しています。必要書類や開業届を提出する際の費用に加え、開業費として計上できる品目についてもお伝えしていますので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
個人事業主が開業する際の手続きとは
個人事業主・フリーランスが開業する際には、税務署に開業届を提出しなければなりません。届け出をしなくても罰則はありませんが、だからと言って任意の手続きという訳ではなく、所得税法によって開業時には必ず提出する義務が定められています。また、開業届を出さないと、青色申告による確定申告をすることはできません。ここでは、開業時に必要な手続きについて確認しておきましょう。
開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)
開業届とは、事業の開業を税務署に申告するための書類です。正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」と言います。
個人事業主・フリーランスは1年間(1月1日〜12月31日)の所得を申告し、所得税を納めなければなりません。開業届を提出することで、税務署に事業と税の開始を報告します。
開業届は国税庁のホームページや税務署で入手可能です。または会計ソフトなどで作成できるサービスもあります。事業開始から1ヶ月以内の提出が義務付けられていますが、期限を過ぎての提出、あるいは未提出でも罰則はありません。ただし、開業届を提出すると次のようなメリットがあります。
- 青色申告が利用できる
- 屋号を名義とした銀行口座を開設できる
- 事業の証明になる(融資の審査時など)
- 小規模企業共済に加入できる
所得税の青色申告承認申請書
「所得税の青色申告承認申請書」は、青色申告による確定申告を行う際に必要な書類です。開業届と違って提出が義務付けられている書類ではありませんが、未提出の場合は自動的に白色申告になります。白色申告は簡易(単式)簿記のため記帳が簡単ですが、控除はありません。
一方の青色申告は複式簿記による記帳が必要ですが、次のようなメリットがあります。
- 最大65万円の特別控除が受けられる
- 家族への給与を専従者給与として経費にできる(青色事業専従者給与)
- 赤字を3年間繰り越せる
- 家事按分が利用できる
所得税の青色申告承認申請書は「開業から2ヶ月以内、もしくは青色申告を希望する年の3月15日までに提出する」とされていますが、開業届と一緒に提出するのが一般的です。
参考:国税庁「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」
個人事業主が開業届を出す際に費用はかかる?
開業届や青色申告承認申請書を税務署へ提出する際に、手数料などの費用はかかるのでしょうか。また、税理士に手続きを依頼する必要があるのかも押さえておきましょう。
税務署に直接手続きに行けば0円
開業届・青色申告承認申請書の提出時に手数料などは必要ありません。それぞれの書類も無料で入手できるため、手続き費用は0円です。
ただし、開業届・青色申告承認申請書は郵送による提出も可能となっており、郵送を選択する場合には封筒代や切手代がかかります。郵送時に必要なものは次の通りです。
- 開業届(2部)
- 青色申告承認申請書
- マイナンバーカードの写し
- 返送用封筒(切手を貼付)
開業届は2部提出し、1部は控えとして返送してもらいます。そのため、切手を貼付した返送用封筒を同封しましょう。
税理士に依頼する場合有料だが基本は必要なし
確定申告を税理士に依頼することを検討している方は特に、開業届・青色申告承認申請書の提出も依頼するべきか判断に迷うこともあるでしょう。
しかし、開業届・青色申告承認申請書は記入項目がさほど多くなく複雑ではないため、基本的に自分自身で書類作成・提出が可能です。場合によっては開業届・青色申告承認申請書以外にも提出書類が必要になることもありますが、税理士に依頼するほど難しくはないでしょう。
また、「freee開業」やマネーフォワードの「クラウド開業届」のように会計ソフトの無料サービスを利用すると、より手軽に書類を作成できます。
個人事業主が開業時にかかる費用について
開業にあたってさまざまな準備が必要になりますが、開業準備にかかった費用は確定申告の際に「開業費」として会計処理することが可能です。ここでは開業時の費用について解説します。
開業にかかる費用は経費にできる?
開業前の費用は経費ではなく、開業費として「繰延資産」で計上できます。繰延資産とは、開業費とは開業準備にかかった費用のことです。また、繰延資産とはすでに代金を支払って購入またはサービスを受けており、翌年以降にも影響を与えるものを指します。
開業の準備費用は「開業以降にも影響するため開業年度だけの経費にはならない」という考え方から、一度資産として処理した上で毎年少しずつ経費に計上(償却)していくのが基本です。
開業にかかった費用は収入から控除することで、節税につなげることができます。期間に決まりはありませんので、領収書を忘れずにもらい保管しておきましょう。
開業費に該当する例
開業のために必要な支出を開業費として処理しますが、開業の準備費用がすべて開業費として処理できるわけではありません。開業費に該当するものとしないものがあります。ここでは開業費に該当するものの例を挙げてみましょう。
マーケティングのための市場調査費
マーケティングのための調査費用や物件・土地の賃借料などは、開業費に該当します。例えば次のような費用です。
- 市場調査のための交通費・ガソリン代
- 打ち合わせのための交通費や飲食代
- 物件の賃借料
- 土地の賃借料
- 店舗の電気・ガス・水道などの光熱費
また、開業に向けて参加したセミナー代、購入した書籍代も開業費として処理が可能です。
パソコンなどの電子機器
電子機器の購入費や開業するまでの通信費なども開業費に該当します。
- パソコン購入費用(10万円以内)
- 事業用電話購入費用
- 回線の開設工事費用
- インターネット通信料
- 事業用電話の利用料金
パソコンの購入費用については、10万円以下のものであれば開業費として処理が可能です。金額が10万円以上するものは開業費にできないため、固定資産として減価償却で処理します。
事務机などの備品
店舗・オフィスの備品や消耗品も開業費に該当します。
- 事務用デスク・チェアの購入費用(10万円以下)
- 文房具・帳簿などの消耗品購入費用
- 印鑑の制作費用
- 名刺作成費用
パソコンなどの電子機器と同じく、10万円以下であればデスク・チェアの購入費用も開業費として処理できます。
チラシ・広告宣伝費
新規開業を告知・宣伝するための費用も開業費です。例を挙げてみましょう。
- チラシ・ポスターの印刷代
- 広告掲載費用
- 看板や店頭ディスプレイの制作費用
- Webサイト制作費用
- あいさつ時の手土産代
Webサイト制作は、業者に依頼すると安くても10万円前後の費用がかかりますが、自分で制作することも可能です。インターネットを検索すれば無料で使えるツールがありますし、初心者も簡単に制作可能なサービスもあります。
この他、広告宣伝費とは異なりますが、オープン前に関係者を招いた飲食などの接待費用も開業費として処理が可能です。
開業費に該当しない例
開業費に該当しないものも、確認しておきましょう。
- 金額が10万円以上のもの
- 物件取得時の敷金・礼金
- 物件の内装工事・リフォーム費用
- 仕入れ代金
金額が10万円以上のものは、開業費ではなく固定資産として処理します。物件取得時の敷金は、後日返金されるものであるため開業費には該当しません。礼金は繰延資産ではあるのですが、開業費とは扱いが異なります。
内装工事・リフォーム費用は部品や工賃などで細かい判断が必要です。資産価値が高まった場合には「資産」となり、価値に変わりはないが原状を復旧した場合は「修繕費」に該当します。
開業届自体は0円!開業時にかかる費用は開業費として計上しよう
今回は、個人事業主・フリーランスの開業届について説明しました。開業時の手続きには、おもに開業届と所得税の青色申告承認申請書の提出が必要です。ただし、手続き・届け出の際に手数料などの費用がかかることはなく、基本的には無料で開業できます。
また、開業のために必要な支出は開業費として処理ができるため、忘れずに領収書を保管しておきましょう。個人事業主は、経常的な支出(継続的に支払いが発生するもの)も開業費にできるため、大きな節税につながるといえます。