飲食店において、「無断キャンセル」は売り上げに重大な被害を与えます。その被害額は年間で2,000億円に及ぶとされており、その対策は必要不可欠です。
今回は飲食店で無断キャンセルが多い理由や請求できるのかどうか、対策方法まで解説します。無断キャンセル時の被害を最小限に抑えるためにお役立てください。
この記事の目次
- 無断キャンセルとは?
- 無断キャンセルの具体例
- 無断キャンセルによる被害額・事業への影響
- 法律上キャンセル料の損害賠償請求はできる?
- 無断キャンセルの対策・対応
- 事前の対策で無断キャンセル問題を解消しよう
無断キャンセルとは?
無断キャンセルとは、店舗への予約をしているにも関わらず、キャンセル連絡なしで予約時間になっても来店されない状態です。ホテルや旅行業界などでは姿を見せない人を意味する「No show」という言葉が日常的に使われています。
無断キャンセルによる被害は、本来発生するはずの売り上げがなくなるだけにとどまりません。その対応のためにかかる人件費や、用意した食材などの経費・光熱費も無駄になってしまいます。大人数になるほど、無断キャンセルによる被害は大きくなってしまいます。
無断キャンセルの具体例
具体例をあげて無断キャンセルの内容を説明します。
大学のサークルの飲み会の事例として、3,000円のコースで50名の予約があったものの、予約当日には1人も来ず、連絡もありませんでした。そのため、150,000円分の売り上げ損失に加え、食材費や人件費も無駄になっており、さらには材料の廃棄代まで発生してしまいました。
また、無断キャンセルのなかには、当日連絡し「もうすぐ到着する」と言っていたにも関わらず、その後、閉店まで来店がないという例もあります。顧客への接待で、選択肢を確保するために複数店舗の予約をし、1店舗にのみ連絡し、選ばれなかった店舗には連絡が入らなかったという理由でキャンセルされた例もあるようです。
無断キャンセルは、ときとして他の顧客にもマイナスイメージを与えてしまいます。例えば、Aさんが飲食店に予約連絡をした際、すでに別で大人数の予約が入っていると断られてしまいました。しかし、大人数の予約が無断キャンセルとなってしまった場合…もしも当日、Aさんが店を訪れて空いているたくさんの席を見つけたら、決して良い気分にはならないでしょう。
無断キャンセルは店舗にとっても消費者にとってもよいことはなく、無断キャンセル対策は双方の利益から考えても重要です。大人数での無断キャンセルの影響はもちろんですが、少人数であっても少なからず影響を及ぼします。
無断キャンセルによる被害額・事業への影響
無断キャンセルが飲食業界全体に与えている損害は年間で2,000億円にものぼるといわれています。また、無断キャンセル以外にも、通常予約のうちに1〜2日前までのキャンセルを含めると、キャンセル全体に占める割合の6%にもなり、この被害は1.6兆円に及ぶと推計されています。無断キャンセルにより飲食店の売り上げが減少することは、少なからず経営や従業員の給料にも影響があると考えて間違いないでしょう。
無断キャンセルが増加することによって、消費者にも悪い影響を与えます。無断キャンセル率の高さから、予約サービスをコース料理に限定する、サービス料金を値上げするという事例もあります。
飲食業での平均的な営業利益率は2.3%ほどで、仮に無断キャンセルや当日2日前以降のキャンセルがなくなった場合には、0.8%ほどの回復が期待できると考えられています。
無断キャンセルが少なくなることで、消費者は予約が取りやすくなり、よいサービスを適切な値段で受けられるほか、サービスやおもてなしの水準の向上も期待できます。
飲食店側も従業員の給料に還元される、設備機器の導入などによる商品の質の向上が図れるなどのメリットがあるでしょう。
法律上キャンセル料の損害賠償請求はできる?
無断キャンセルをした場合、対策として損害賠償請求をする方法があります。しかし、日本ではそのような考え方が浸透しておらず、泣き寝入りしている飲食店が多いのが現状です。ここではキャンセル料をどのように考えるべきか、考え方について解説します。
キャンセル料算定の考え方
キャンセル料は飲食店側で請求することは民法415条や709条の観点から可能です。キャンセル料の請求をするためには、発生する損害を計算し、適切なキャンセルポリシーの設定をする必要があります。
基本的な考え方については、「内容が確定しているかどうか」「損害が出ているかどうか」「埋め合わせができるかどうか」の3点です。
「内容が確定しているかどうか」については、予約方法の違いを問わず、内容が確定した時点でキャンセルに対する損害請求は可能になります。しかし、確定していないと考えられる場合でも、一方的なキャンセルについては不法行為にあたり、請求できる場合があります。
「損害が出ているかどうか」については、事前のキャンセルであっても、損害を与えた場合は、債務不履行や不法行為に該当する可能性があり、場合によっては請求が可能です。ただし、その理由や程度、時期によって損害の額が変わることがあるため、事例ごとに損害賠償額が異なることもあります。
「埋め合わせができるかどうか」は、再販し、別のお客さまでの補填ができるかどうかです。直前のキャンセルの場合、損害を別のお客さまで補填することが難しいということが前提にあります。
コース料理なのか、席のみ予約なのかによっても変わりますが、転用可能なものを除いた損失が損害賠償として請求可能です。
上記の点を踏まえたうえで、法律の範囲内での適切なキャンセルポリシーを設定し、予約時点でその内容を消費者に明示することで、キャンセル料の請求ができます。
実際にキャンセル料を請求する飲食店は少ない
上記の条件や手順を踏まえれば、キャンセル料は飲食店でも請求ができますが、実際に請求している飲食店は多くありません。宿泊業については無断キャンセルや当日キャンセルで、予約金額の100%を請求できることが認知されています。
しかし、飲食店の場合は業務量が多く、無断キャンセルの請求に時間と労力を十分に割くことができません。キャンセルポリシーの設定ができていない場合、予約情報の詐称により連絡ができない場合、電話予約など約束の証拠が残らない場合があり、キャンセル料の請求がしにくくなっていることが多いです。
以上のような理由から、飲食店でのキャンセルは可能なものの、実際に行われている例は少なく、泣き寝入りするしかない場合が多くなっています。
無断キャンセルの対策・対応
無断キャンセルは被害が大きく、発生時に対応できる状態を整えることが大切です。ここでは無断キャンセルの対策や対応について解説します。
キャンセルポリシーやキャンセル料の目安を明示する
無断キャンセル対策として、インターネット上でキャンセルポリシーを明示し、電話予約の場合でも、必要最低限のキャンセルポリシーの説明を行いましょう。キャンセルポリシーを用意していても、伝わっていない場合には、キャンセル料の請求が難しくなる場合があります。
IT予約システムを利用する場合には、確認用のSMSを利用するのも効果的です。予約確認メールの内容に合わせて、キャンセルポリシーを明示しておくと、キャンセル料の請求を問題なく行えます。
弁護士によるキャンセル料回収代行サービスを活用する
弁護士によるキャンセル料回収代行サービスを利用するのも選択肢です。具体的には、「ノーキャンドットコム」のようなサービスがあります。
このサービスは、会員登録が無料で利用できる点が特徴です。キャンセル発生時に依頼することで、キャンセル料の請求を弁護士が代行してくれます。登録も簡単で、キャンセルが発生したときに、Webで受付することで簡単に利用可能です。
申し込みすると、弁護士が予約があった電話番号に対して、ショートメールで督促を継続的に行い、キャンセル料を回収します。利用料も回収金額から手数料が差し引かれるため、忙しくてキャンセル料の回収に労力が割けない飲食手経営者の方も安心して利用できるでしょう。
予約時の事前決済を導入する
予約時の事前決済サービスを利用する方法も効果的です。事前決済サービスとは、事前に料金の支払いを行うサービスです。料金の一部を支払うことが予約条件になっているため、キャンセルがあった場合でも、キャンセル料が確実に徴収できます。
また、事前決済を行わない場合でも、予約時にクレジットカードの事前登録が必要なサービスであれば、キャンセルがあった場合にも、確実なキャンセル料の徴収が可能です。
以上のようなサービスを利用することで、無断キャンセル時のキャンセル料回収がしやすくなるだけではなく、予約管理の効率化にも効果的です。
事前の対策で無断キャンセル問題を解消しよう
無断キャンセルは飲食店にとって、売り上げに重要な被害を与える問題です。しかし、キャンセル料の回収は難しく、回収のためにはキャンセルポリシーの設定など、事前の対策をする必要があります。
キャンセルポリシーの設定を行い、回収に役立つ事前決済サービスなどを利用するなど、
無断キャンセルの被害を最小限に抑えましょう。