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お店ラジオ 2024/06/13 2024/06/13

カスタムオーダースーツの出発点

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。

今回のゲストは、2012年に株式会社FABRIC TOKYOの前進となる株式会社ライフスタイルデザインを創業し、2018年現在の株式会社FABRIC TOKYOへ社名変更。都市圏に採寸だけお行うリアル店舗を運営し、PCやスマートフォンなどから注文するというビジネスモデルを構築。洋服をもっと便利で楽しくかっこいい存在にしたいという想いの元、最先端のテクノロジーを駆使した新しい洋服のD2Cブランドを運営する株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役 CEO森 雄一郎さんです。

デジタルを活用した新しいカスタムオーダースーツの出発点や潜在ニーズを掘り起こし顕在化する方法、安心感が生まれる購買体験の提供、独自のPR戦略、工場と連携したIT化とファブレスビジネスモデルの展望、顧客ニーズに応じた柔軟な対応と今後のスーツ業界の展望など3回に分けてお送りします。

第1回は、新しいスタイルオーダースーツのスタートや潜在ニーズの掘り起こし方、リアル店舗の必要性などについてお送りします。

 

この記事の目次

 

新しいスタイルのカスタムオーダースーツ

FABRIC TOKYOはオーダースーツを販売する会社です。販売はECサイトを通じて行い、現在、全国に10店舗を展開しているリアル店舗では、採寸など購入のサポートを行っています。お客様には、まず店舗にご来店いただき、そこで採寸しデータをデジタル化します。そして、データをECサイトに登録し、サイトで購入するという流れになっています。

これまでのカスタムオーダーは、採寸して型紙を作り、生地を裁断してスーツを作るという非常にアナログな工程でした。私は10年前にこの会社を創業しましたが、当時、そのアナログな工程をデジタル化して効率化することで、より多くの人にオーダーメイドのスーツやシャツを届けられると考え創業しました。FABRIC TOKYOの特徴は、店舗を持たずにECサイトを中心に展開している点で、そこが他のオーダースーツブランドとは違う我々の特徴となっています。

 

難しいところからスタートするオーダースーツ

2014年当時、既に“ZOZOTOWN”などのECサイトはありましたが、洋服をネットで購入することが今ほど一般的ではありませんでした。市場調査によると、「洋服をECサイトで買いますか?」という質問に対し、95%の人が「買わない」と答える時代でした。

現在では、「オンラインで購入する」と答える人は約20%に増えましたが、依然として80%の人が店舗での購入を望んでおり、アパレル業界におけるEC化のハードルは非常に高い状況です。しかし、最初にスーツを購入していただければ、採寸データをサイト側で保存することができます。その結果、2回目以降の購入時には、そのデータを基に新しいスーツを作成でき、お客様も安心して購入できるという仮説を立ててスタートしました。

特に、サイズが最も重要な洋服はスーツです。フィット感があり、シワが寄りにくいシルエットを作ることが重要です。最初にしっかりとデータを取得することで、その後の購入プロセスがどんどん簡単になっていくと考えています。

ただし、いきなりカスタムオーダースーツというのはハードルが高いため、釣りモノやシャツなどの簡単なアイテムから始めることも検討しました。しかし、簡単なところから始めると他社に真似されやすくなってしまいます。そこで、最も難しいスーツからスタートする方が、中長期的には最も正攻法であると判断しました。

 

オーダーメイドスーツのミリ単位のこだわり

スーツは、袖の長さが短すぎたり長すぎたりすると、着こなしていない印象を与えてしまいます。特に袖が長いと、服に着られているような雰囲気になります。そのため、センチメートル単位、場合によっては0.5センチメートル単位での調整が必要です。

お客様の中にはミリ単位でこだわる方も多く、そのミリ単位の調整も作り方次第で変わってきます。だからこそ、一つ一つ細かくお客様の満足度をヒアリングし、店舗でデータを作成し、2回目以降も安心して購入していただくことで、中長期的に発展していけると考えています。

それでも、ECサイトでのカスタムオーダースーツの販売は、これまでの常識とは異なる方法でお客様を獲得する必要がありました。そのため、最初はアンケートを取ることから始めることにし、渋谷のスクランブル交差点に立ち、3時間ほどビジネスマン100人にオーダーメイドスーツについてのアンケートを行いました。

 

潜在的ニーズを掘り起こす

渋谷で実施したアンケートの回答者の年齢層は20代から40代でした。質問内容は「体型に悩みを感じたことがあるか?」というもので、約85%の方が何らかの不満や悩みを抱えていることが分かりました。具体的には、首が太い、足が太い、お腹が少し出ている、あるいは痩せすぎているなどの悩みです。

次に「オーダーメイドで洋服を作ったことがあるか?」という質問に対しては、「作ったことがある」という回答したのはわずか8%だけでした。つまり、80%以上の方が体型に対する不満を抱えているにもかかわらず、具体的に解決するための洋服を購入したことがあるのはわずか8%の方だけでした。

この調査結果から、潜在ニーズを掘り起こし、それを顕在化させることがこのビジネスモデルの成功の一つの手段であると考えました。しかし、未経験の方の潜在ニーズを顕在化し、行動を促すのは非常に難しく、時間はかかると思いましたが、創業期にはこの挑戦にワクワクしながら取り組みました。

 

クラウドファンディングで潜在ニーズを顕在化する

私たちは当時、集客においては、お客様がいる場所に直接アプローチしようと考え、クラウドファンディングを利用することに決めました。まず、クラウドファンディングで支援していただいた方に、オーダーシャツを20%割引で購入できる「お仕立て券」を配布しました。そして、オーダースーツを購入してくださった方にも20%割引を提供しました。その結果、いきなり200名の方に購入していただくことができました。

当時のクラウドファンディングではシンプルな訴求方法が効果的だったため、3つのプランでスタートしました。その結果、潜在的なお客様が顕在化してきたと感じました。

クラウドファンディングの良い点は、信用がまだ確立していなくても、リスクを承知で応援しようとするお客様が多いことです。これらのお客様はアーリーアダプターとなり、その後も応援し続けてくれる可能性が高いのです。実際に、クラウドファンディングで新規のお客様がオーダースーツを購入し、そのうち20%がリピートしてくださいました。この最初のプロモーションが将来に向けて希望が持てる結果となりました。

 

改めて感じたリアル店舗の必要性

当時は、リアル店舗を持っておらず、採寸はお客様自身にお願いしていました。しかし、測り方を間違えると体に合わないスーツがお客様に届いてしまうという問題がありました。

その問題を解決するために、スタッフがご自宅やオフィスなどへ出張して採寸を行いましたが、出張採寸はコストが高く、一人のお客様のために訪問するのは効率的ではありませんでした。東京23区限定で始めたものの、人件費がかさみ、このままではスケールするのは難しいと感じました。LTV(顧客生涯価値)的に長い目で見ると良いのかもしれませんが、短期的にはコストがかかり過ぎました。

そんな中、オフィスに採寸に来てもらえないかという要望が増えてきました。また、渋谷のシェアオフィスにいた私たちの元に、仕事帰りに訪れるお客様も増えていきました。その時、拠点があればお客様がもっと来やすくなるのではと考え、リアル店舗の開設を決断しました。

しかし、実際に店舗を持つには初期投資や人件費などのリスクが伴います。そこで、最初は10日間限定のポップアップストアを開催することにしました。イベントは大変盛況で、それまでに会員登録やSNSのフォローをしてくださっていたお客様が、ポップアップストアに足を運んでくださり、オープンから3日間で過去最高の売り上げを達成することができました。この経験から、B to Cビジネスにおいては顧客とのタッチポイントが重要であることを痛感しました。

 

第1回は、新しいスタイルオーダースーツのスタートや潜在ニーズの掘り起こし方、リアル店舗の必要性などについてお送りしました。

第2回は、リアル店舗の役割や安心感を生む購買体験、プレスリリースとマーケティング戦略、工場との連携などについてお送りします。

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