about
「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
放送の音声はこちらから!
#115 人気ラーメン店「AFURI」 行列の理由&潰れないお店の作り方
今回のゲストは、かつてラーメン四天王として注目を浴びた中村屋の2号店として厚木市の阿夫利山の麓にオープンしたZUND-BARを引き継ぎ、恵比寿にAFURIをオープン。「儲かるお店よりも潰れないお店づくりを目指す」、「自分がこの場所で店を構えることに価値がある」という独自の経営哲学で、コンパクトで機能的なお店づくりや、出店を進めるAFURI株式会社 代表取締役 中村 比呂人さんです。
AFURIを創業するに至った経緯や一度離れたラーメン店から再び挑戦したラーメン店の経営、潰れないお店づくりのための店舗経営や出店戦略、味の一貫性の確保、そして海外展開やAFURI流値上げの秘訣など、3回に分けてお話しいただきます。
第1回は、中村屋から始まったラーメン業界、ZUND-BAR、AFURIの出店と再生についてお送りしました。
第2回は、潰れないお店づくりやAFURIのドミナント戦略、立地選びについてお送りしました。
第3回は、セントラルキッチンと水へのこだわり、海外戦略と独自の値上げ方法についてお送りします。
この記事の目次
AFURIの進化とラーメンビジネス
私たちの店では時間をかけて徐々に顧客が増えていくという傾向がありました。しかし、中目黒に開店した4店舗目では、AFURIブランドの知名度が既に高まっていたため、工事中から通行人が開店を待ち望む声を耳にしました。
開店初日から多くのお客様が訪れ、長蛇の列ができてしまうと、品質の維持が困難になるリスクがあると考えています。新しいスタッフで構成されるチームでは、最初から完璧な運営は望めません。そのため、開店してすぐに多くのお客様に訪れていただきたいと思う一方で、開店後、スムーズに美味しい料理を提供できる体制を整えるための準備期間も必要だと考えています。
初期の3店舗、特に2店舗目と3店舗目の開店は大きな挑戦でした。しかし、現在では15〜16店舗のネットワークの一部となり、当時と比べて精神的なプレッシャーは大幅に軽減されています。店舗数が増えることで、各店舗が相互に支援し合うことが容易になり、それは大きな利点となります。
セントラルキッチンの活用と味の一貫性の確保
恵比寿店を出店した当初、厚木市のZUND-BARで調理し、夜間に冷却して東京へ運んでいました。これは、セントラルキッチンというよりも、ZUND-BARで大量に調理するという形でした。
店舗数が増えるにつれて、品質維持の重要性が増してきましたので、現在では誰が見ても恥ずかしくないようなセントラルキッチンを阿夫利山の麓に設けています。阿夫利山の麓にこだわったのは、デリバリーが大変であったとしても水の質にこだわりを持ち続けているためで、味の一貫性が大幅に向上しました。
しかし、各店舗での作業工程により、微妙な味のブレが生じることがあります。例えば、炙りチャーシューや湯切りなど、調理の細部で微妙な差が生じることがあります。炙りチャーシューは焦げるギリギリのタイミングで炙りを止める必要があり、湯切りが不十分だとスープが薄まる恐れがあります。このような微妙な工程が重なると、同じ材料とレシピで作っても、誰が作るかによって味に差が出ることがあります。
味については、セントラルキッチンで厳密に調整しています。適切な教育を受けたスタッフが誠実に作業を行えば、基本的には複雑な手順は必要なく、品質を維持することが可能ですが、先に述べたように、細部では個々の技量によって差が出ることがあります。
AFURIの海外展開戦略
AFURIは既に海外に11店舗を展開しています。最初は、知人からの提案によるものでした。それはラーメン店ではなく、和食レストランのアイデアでした。提案を受けた当初は新ブランドに魅力を感じましたが、チームで培った実績を活かし、AFURIという名前の店舗を開店するのが最善と考え、知人に提案し賛同を得ることができました。
そして、アメリカでの第1号店はオレゴン州ポートランドに開店しました。お店は約100席を持つ大きな店舗で、このような大型店舗を開店できたのは、グローバルダイニングにて、大型店のマネジメントや海外出店の経験があったスタッフの存在が大きかったです。
このプロジェクトは私自身の挑戦であり、そのスタッフの挑戦でもありました。私は信頼するスタッフに「君ならできるよね?」と背中を押し、出店を実現しました。店内にはバーカウンターが設けられ、ウェイティングエリアとしても機能し、独立したキッチンと上へ伸びるダクトが印象的なデザインが特徴です。
海外での初出店は大きな初期投資が必要でしたが、人件費や家賃が予想よりも低かったため、成功できると感じました。特に、ニューヨークやLAといった主要都市と比較して、ポートランドの地価は非常に魅力的で、さらに、マウントフッド周辺の水の豊富さと純度の高さも、投資決定に大きな影響を与えました。
このような条件が揃ったおかげで、コロナ禍が到来するまでは順調に経営を続けることができました。そして現在、アメリカではポートランドを中心に4店舗を運営しています。
AFURIの価格戦略
AFURIは、私が自ら言うのも恐縮ですが、巧みに価格を上げてきました。ラーメン業界には「1,000円の壁」という概念がありますが、当初800円から900円だった私たちの価格は、現在では1,500円まで上昇しています。
価格を上げる前からAFURIの価格は高めと評価されていましたが、増税時の価格変更など、ステルス値上げのような手法を用いて、徐々に価格を上げてきました。
例えば、50円で提供されていた鶏油(チーユ)を無料にし、その代わりにラーメンの価格を100円上げるなど、印象操作を交えた値上げも行いました。また、トッピングの方式を変更したり、サイドメニューの価格を引き上げたりすることで、全体のメニュー価格を徐々に上げていきました。
ビジュアルの重要性と価格戦略
当時は、「食べログ」が登場し影響力を持ち始めた時期でした。
私は、SNSの影響力が大きいと感じており、AFURIではラーメンのビジュアルの重要性を特に意識しました。チャーシュー、卵、水菜、メンマ、海苔をトッピングした特徴的などんぶりのスタイルは、私たちのアイデンティティであり、そのビジュアルを維持しつつ広く知らせることが重要だと思いました。そのため、単に価格を上げるだけでなく、ビジュアルを維持したまま価格を上げる戦略を採りました。
この価格戦略には社内からも反対意見がありました。900円から1,000円への価格上昇時には「売れなくなる」「業界の慣習に反する」との声もありましたが、従業員の給与を上げ、業界で長く働ける環境を作るためには価格上昇が不可欠だと説明しました。結果、社長の提案による値上げは、常に良い結果につながっているからと、賛同を得ることができました。
AFURIの段階的な価格戦略と顧客満足度
私たちは、50円単位で段階的に価格を上げることを基本としています。例えば、800円から始めて850円、880円、950円、980円と徐々に引き上げ、最終的に1,000円を超える設定になっています。
そして、価格変更の度に一時的に客足が遠のく傾向がありますが、その間に味の改善やオペレーションの改良などを行い、結果的にお客様が戻ってくるというパターンが繰り返されます。
値上げのコツとしては、価格を少しずつ上げているように見せることが重要です。ただ価格を上げるだけでなく、値上げと同時に可能な改善を一つずつ着実に行うことも大切です。例えば、メニューの価格表示に関する小さな工夫もあります。私たちの調査によると、価格に「¥」マークがある場合とない場合では、マークがある方が高く感じられることがあるようです。
さらに、原価だけでなくメニュー表のビジュアルも重要です。1,280円と1,290円のメニューが同じように見える場合、わずかに高い1,290円を選択することがあります。
その他にも、800円の商品を値上げする場合、その商品が800円に見えるか、850円に見えるかを比べ、800円に見えるのであれば、価格は850円ではなく830円とする判断もします。これらの細かい工夫の積み重ねが重要で、お客様に納得感を提供することを心掛けています。