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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFM・FM大阪で毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
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第19,20回のゲストは、「炭火焼肉たむら」のオーナー・“たむけん”ことたむらけんじさんです。お笑いタレントと実業家の顔を持つたむらけんじさんの、波乱万丈でちょっと笑える飲食ビジネスについてご紹介します。
「焼肉たむら」のココがスゴい!
- 肉のタレすらない!0からのお店づくり
- 目指すは焼肉界のリッツカールトン!接客への熱いこだわり
- 救世主Xの登場で、事業が急成長。とことん好きにさせるマネジメント
- “真っ黒なポテチ”はブランド力向上のための秘策!?
この記事の目次
タイムリミットはたったの1ヶ月、崖っぷちのスタート
焼肉店をオープンした理由。それは僕なりの”恩返し”からスタートしました。きっかけは元奥さんの母が経営していた焼肉店の閉業。しかし、撤去するにも400万円ほどお金がかかることが分かったんです。本人は「もう続けたくない」の一点張りで、なんとか店を続けられたらベストだけど…。
議論が平行線を辿っていた時、ふと「今までめちゃくちゃお世話になったお義母さんに、恩返しするならもしかして今?」という思いがよぎりました。気づけばあれよあれよと僕がお店を引き継ぐことが決まり、従業員も呼び戻すことに。
ただ、元々このお店は準フランチャイズのような形で経営していたため、フランチャイジーに経営権の譲渡を要求されてしまって。なんだか弱みにつけ込まれたようで腹が立ち「僕がやるのでいいです!」と言ったら「だったら看板を下ろせ、タレも使うな」とまさかの展開に。
想定外の0からのスタートとなり、ひとまず何の知識も無いまま肉の加工場へ向かいました。ロッキーの映画に出てくるような枝肉やチェーンソーで轟音を立てながら肉を裁断する様子が衝撃的だったことを今でも鮮明に覚えています。
一方、焼肉店に欠かせない“タレ”の調達も急務です。どうしたものかと考えていた時、偶然知り合いの韓国料理屋の社長が思い浮かび、すぐにアポを取って相談に行きました。ありがたいことにそのお店のタレを使わせてもらうことができたのですが、この時なんとオープン1週間前。やると決めてから1ヶ月、本当にドタバタの開店準備でした。
焼肉界のリッツカールトンを目指せ!
なんとかオープンにこぎつけたお店は、警察にお世話になるほど人が溢れ返って大繁盛。ただ、個人的に“タレントが経営するお店”として売り出すのは何だか嫌で、僕が店頭に立つことはほとんどありませんでした。その代わりに、従業員には「こういうお店をやりたい」「こういう接客をしたい」「俺の好きな接客はこうなんだ!」と口酸っぱく伝えていましたね。当時は「焼肉界のリッツカールトンを目指そう!」とよく言っていました。やっぱり、サービス業の最高峰と言えば高級ホテルですから。
その成果もあってか、以前大阪のみのおキューズモール店で実施された接客覆面調査で100点を取ったことがありました。日頃従業員には僕の理想を伝えてたものの、何の指示もしていなければ、マニュアルも作っておらず、基本的に好きにやらせていたので非常に驚きました。でも、僕なりの“哲学”がちゃんと現場に浸透していることが分かり、めちゃくちゃ嬉しかったですね。
調子に乗った多店舗展開は大失敗!その理由は…?
1店舗目の経営に成功して調子に乗った僕は、多店舗展開に乗り出します。2店舗目をオープンした当初は月の売上が3,500万円ほどあがり「ほら、やっぱりイケるやん!」と余裕綽々。
しかし、3年目から雲行きが怪しくなり、気づけば一気に赤字へ転落、最終的には完全に首が回らなくなって5年で逃げるように撤退しました。この見事な転落劇の原因は2つ。“箱”を大きくしすぎたことと、会計管理が完全にザルだったことでしょう。
前者は、1店舗目と比べて倍くらいの席数を構えるお店を作ってしまった。やはり規模が大きくなればなるほど小回りが利かなくなるため、売上が少し落ちただけで固定費が想像以上に重くのしかかります。後者については、会社のお金回りを全て税理士の先生に丸投げし、僕自身が何も数字を把握していなかったこと。「これはまずい!」と気づいた頃には手遅れだったのです。
資金を持ち逃げされても諦めがつく!?“救世主X”との信頼関係
そんな状況の中でも、実は懲りもせず3店舗目・4店舗目を出店していたのですが、人材育成が追いつかず失敗に終わりました。このことで“人”の大切さを思い知り、今でもアルバイトの採用面接の動画を僕自身がチェックするほどです。
経営が失敗続きで行き詰まっていた頃、救世主として登場したのが元芸人の後輩。僕らは彼を“Xさん”と呼んでいて、今では会社のナンバー2として活躍してくれています。Xさんにはお金回りを一任。ザル勘定からの大成長です。とは言え、資金の借入は全て僕名義なので「持ち逃げされるの怖くないの?」ともよく聞かれます。でも、人をちゃんと見ていたらそんな不安は出てきませんよ。仮にXさんに持ち逃げされたところで諦めがつくくらいには、信頼を寄せているんです。
その他にもXさんには新規事業の提案なども積極的に行ってもらっています。ある日、フランチャイズ店のオープンに立ち会いに行ったことがありました。その時、フランチャイズ(以下、FC)の方がうちの社員に「本部長」とか「専務」とか言っていることに気づいて。
役職なんて特に設けていなかったのに、いつの間にか僕の知らないところで会社組織ができていたんです。これもXさんを中心とした社員自ら「これからはちゃんとした組織を作らないと」と思ってのこと。僕が気づくべきだったよなあという反省もありますが、着実に“会社”として成長を遂げています。
FCで失敗したくないなら、〇を最優先しよう
今でもFC展開はしているのですが、個人的には自分の目が行き届く範囲に留めておきたいと思っています。ただ、コロナの影響で苦しんでいるお店はたくさんあるので、初期投資を最低限に抑えながら「焼肉たむら」の看板だけ使ってもらう、言わば“お手軽FC”みたいなシステムには関心がありますね。実際、地方に調査をしに行ったり個別にお声がけさせてもらったりもし始めているところです。
正直、当社はそれほどFCに成功したと言える立場ではありません。ただ、今後FC展開するのであれば、かなり厳選していきたいなと思っていて、FC経験やオーナーの人柄をめちゃくちゃ確認してから決めようと考えています。
やはり、FC経験が豊富な方だとこちらも学ぶことが多いですし、お店に対して情熱的な方にはすごく刺激を受けますね。実際FC契約を検討する時は、僕が直接オーナーに会いに行っているんです。どんなに綺麗な仕組みを作っても、それを生かすも殺すも結局は“人”。FCで失敗したくないなら、“人”を最優先に少しずつ広げていくべきでしょうね。
「物販」は儲かる?新たな大阪土産の誕生を目指して
最近は飲食店経営の他にも、物販事業に力を入れています。新しい大阪土産を作りたい!と始めたオリジナルカレーの販売がその代表例です。
当初は「500円のレトルトカレーなんて売れるわけない」と散々言われましたが、“自分では買わないけれど、もらったら嬉しいお土産”として、店舗とECで販売したところ累計で500万食を売り上げました。でも、物販が儲かるのかと言えば「もっと儲かってもいいのに」というのが本音。
物販ビジネスは直接的な売上よりもブランド力の向上を目的にすべきですね。お土産以外にも、以前ローソンとタイアップし、オリジナルのカップラーメンやポテトチップスを販売。物販では商品を手に取ってもらうことが勝負。特にポテトチップスは工夫を凝らし、表面を真っ黒にしました。お客さんが「何これ、ミスプリント?」と思って裏を返すと、そこには僕の顔写真が!面白いでしょう?
大手メーカーの商品と比較すれば、製造コスト上どうしても価格は高くなりますが、それに価値を見出せるかは本当に人それぞれ。必ずファンになってくれる人がいるはずと思って、これからも様々な面白いことに挑戦していきます。前向きに、上向きに、常に笑っている方が絶対に良いですから。