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今回のゲストは、自宅や別荘をホテルとして活用する新しいビジネスモデルを展開する「NOT A HOTEL株式会社」の代表取締役CEO、濱波伸次さんです。2020年に設立された同社は、独自のデザインと運営スタイルで注目を集めています。
新しいビジネスモデルを考案し、宮崎で「NOT A HOTEL株式会社」を設立するに至った経緯、独自のデザインと運営方法によって成功を収めた背景、そして国内外での展開や、品質と顧客満足に対するこだわりについて、3回に分けてお送りします。
第1回は、NOT A HOTELの創業と逆転の発想で生まれた新しいビジネスホテル、ノンアセット型ビジネスモデルなどについてお送りしました。
第2回は、8億円の物件をクリックで購入させるエッジの効いたデザインと魅力、新しい別荘の所有方法などについてお送りしました。
第3回は、独自の働き方と採用方法、無人オペレーションシステムの投資と構築、今後の展開などについてお送りします。
この記事の目次
「旅するシェフ」独自の採用の取り組みと魅力的な働き方
私たちは採用活動に非常に力を入れており、エージェントに頼るだけでなく、自社で採用イベントを開催するなど、積極的に取り組んでいます。
特に料理人の採用は難しいとされていますが、当社の運営会社には、三ツ星を中華料理で初めて獲得したレストランのオーナーである林が共同代表を務めており、その影響もあって、料理人が比較的集まりやすい状況です。
また、ヘリコプターでしかアクセスできないような場所にあるホテルも、逆にその特異な立地が魅力となっています。非常に田舎な環境にありながら、各施設はオーベルジュのような雰囲気を持っており、長期滞在を希望する方もいれば、さまざまな場所を巡りたいという働き方を求める方もいます。
このような背景から、「旅するシェフ」として働きたいという若く才能あるシェフやサービスマンが集まりつつあります。苦労はありますが、現在のところ採用活動もうまく進んでいると感じています。
アプリを活用したサービス提供
当社では、チャットやAI、宮崎にあるコールセンターを活用し、多くのサポートをアプリで完結させています。現在の富裕層の多くは「自分でできるから大丈夫」と考えており、当社のシステムはそのニーズに対応しています。
例えば、アプリを使ったチェックインや、チャットでの質問対応など、すべての拠点で共通の操作が可能です。この一貫性により、利用者にストレスを与えることなく、サービスを提供できます。
一度操作を覚えれば、他のホテルでも同じ手順で対応できるため、各拠点での人員を最小限に抑えつつ、利用者の満足度を向上させています。場合によっては、人と接触しないことが最大のサービスとなることもあります。
海外のインバウンド調査によると、日本の旅館に対する不満点として「スタッフが部屋に入ってくること」が挙げられています。海外では、ドアマンが荷物を入り口に置くだけで、部屋には入らないのが一般的です。
私たちは、このようなデータに基づいてサービスを設計し、思い込みに頼らないサービス提供を心がけています。
システム構築のための5億円の投資
当社では、タブレットですべての操作が可能になるよう、バックエンドのシステム構築に多額のコストを投じています。年間で3億から5億円をシステムに投資し、30人から40人のエンジニアを雇用するなど、大規模な投資を行っています。
当初から、10拠点、20拠点といった規模での展開を計画し、自身が抱えていた不満を解消するシステムの開発を目指しました。
最初は外注も検討しましたが、期待に応えるシステムが見つからず、最終的に自社で開発することを決断しました。その後、エンジニアを採用し、本格的にシステム開発を開始したのです。
無人オペレーションで100%の稼働率
当社の拠点に宿泊する際、スマホでチェックインし、誰とも会わずに過ごすことが一般的です。
料理を提供する際だけサービスを受けるというイメージですが、実際には多くの方がスーパーで食材を購入し、部屋のキッチンを使って自分たちで調理することが多いため、チェックインからチェックアウトまで一度もスタッフに会わないことも珍しくありません。
各拠点には、1部屋あたり1〜2名ほどのスタッフが配置されており、シェフが支配人を兼任している場合が多いです。
料理の準備から清掃まで、細部にわたって管理し、一つのオーベルジュやホテルを運営するように気を配っています。シェフであっても、トイレの清掃なども自身で確認し、施設全体の清潔さに常に気を使っています。
通常の高級ホテルでは稼働率が20%程度にとどまることが多いですが、私たちの場合、NOT A HOTELのオーナーが半分以上の時間を利用しており、空いている日を他のオーナーや拠点の方が相互に利用することで、稼働率はほぼ100%を維持しています。
通常のホテルでは稼働にムラがありますが、当社の運営体制では安定しており、専属のスタッフを確保することが可能です。
富裕層のニーズに応える施設選びとその魅力
私たちの施設は、那須、宮崎、北軽井沢など、やや意外な立地にあります。
こうした場所は土地代が比較的安いため、建築やサービスに十分な投資を行うことができます。
ヒアリングを通じて分かったことですが、富裕層の方々は宿泊施設の周辺観光にはあまり興味を持たない傾向があります。オーベルジュのように、自分たちで料理を楽しむお客様も多く、私たちの施設に宿泊する方は、外食に出かけるという発想があまりありません。
また、富裕層の方々は、周辺観光よりも、施設内での焚き火、温泉、サウナ、ワインを楽しむことを好む傾向があります。そのため、私たちの拠点では、一日中部屋の中で快適に過ごせる環境を提供しており、これが他のホテルとの大きな違いだと考えています。
さらに、アクセスの良さも重要視しています。例えば、宮崎の施設は空港から車で10分、那須の施設も新幹線でアクセスでき、その後車で20〜25分ほどで到着します。
このように、行きやすい場所にあることだけでも、多くのお客様にご満足いただいており、一泊だけでも仲間と一緒に訪れるケースが増えています。
今後の展望と戦略的拠点拡大
また、拠点の選定においては、東京から車で2時間以内、または1時間弱でアクセスできる近郊エリアに注力しています。例えば、三浦海岸や千葉の富津などがその一例です。
ただし、温泉が少ないエリアでは、サウナを強化することで差別化を図っています。現在、7カ所の拠点を運営しており、さらに7カ所を追加、さらに10カ所を加え、計30カ所を目指しています。
将来的には、50拠点、さらには100拠点までの拡大を視野に入れています。一つひとつの拠点の規模が大きくなっており、現在は年間で200億円ほどの売上を達成していますが、今後は1000億円の売上を見込んでいます。
また、投資規模も拡大し、100億円のエクイティで1000億円の開発を可能とするビジネスモデルを構築しています。
レバレッジを活用してスピードを上げることも視野に入れていますが、当社の方針としては、間接投資を活用しつつも、できるだけライトな経営を目指しています。
「日本に家を持ちたい」という海外のニーズ
海外展開も検討していますが、まず強く感じているのは、海外からの「日本に家を持ちたい」というニーズが非常に高いことです。海外展開についてはM&Aも視野に入れていますが、まずは国内で圧倒的な存在感を目指すことに注力しています。
日本には、まだ利用されていない素晴らしい土地が数多く存在しますが、その情報を見つけるのは容易ではありません。土地を所有している人がいても、アクセスの問題で購入が難しいケースが多いのです。
しかし、最近ではそういった情報が次々と集まり、非常に恵まれた状況になっています。現在では、どの土地から開発を始めるか悩むほど、豊富な土地のストックがある状況です。
以前は土地探しがボトルネックでしたが、今ではその問題も解消されました。これまで最も大きな課題と感じていましたが、成長を急ぎすぎず、需要と供給のバランスを見極めながら、良質なものを提供することを会社としての最優先事項としています。