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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、“着る人の夢を叶えるオーダーメイドスーツ”をコンセプトにオーダーメイドスーツ専門店を展開する、株式会社muse代表取締役の勝さんです。
「人の夢を笑わない 心の才能を養う場所」人生に寄り添う店づくりについてお送りします。
この記事の目次
東京進出と挫折。つらい理由は仲間がいないことだと気づく
東京進出のため、六本木のビルを1棟借りました。しかし社員を増やす必要があり、さらに社員の教育も必要でした。ところが急ピッチで採用を進めたため、寄せ集めのような状態に陥ってしまいました。
また、私が東京に行ったことにより大阪の売り上げが低下してしまいました。そのため私は唯一の収入源である大阪に戻り1週間で1ヶ月分の売り上げを稼いだ後、再び東京に戻って残りの3週間で新規営業開拓や経営、人材教育に取り組むという、非常に厳しい状況に陥っていました。
このような状況になり、社員とコミュニケーションが難しくなったことにより接客の質が低下しました。結果、お客様が笑顔で帰っていないと感じるお店になってしまいました。さらに六本木にお店をオープンしてから2週間後に大雨が降って店舗が浸水し、新しく作った革製品も全て駄目になりました。
数々の苦境に陥ったうえに売上が伸びない状況にも直面し、私は「夢の階段を登っているのか、人生を転落しているのか」というほど追い詰められました。その時期は本当につらい時期でした。それまで大阪でこれ以上頑張れないと思うほど一生懸命努力してきましたが、人というのは本気の努力など人生で何度もできません。その時の私にもできなかったんです。
商品が売れなくなり、会社が潰れてしまう可能性がある中で売上が上がらず解決策もなく、とても苦しい時期が続きました。
そんな時に、初めて自分に問いかけました。
「今、何がつらいのか」
お金の不安は無くなっていましたし、お客さんがいなくてお店が潰れることでもありませんでした。考えているうちに、仲間がいないことだということに気がついたんです。
それまでは自分ひとりが全力を尽くせば良いと思って働いていましたが、実際には仲間と協力することの方が、より強い力になることを分かっていなかったんです。そして、協力してくれる仲間を作ろうと思ったら、弱音や困りごとを口にすることができるようになったんです。
そうすると、今でも私と一緒に頑張ってくれている右腕と左腕となる仲間ができました。それから、お店の売り上げも徐々に回復していきました。
そして、ミラノコレクションに出ていた日本のデザイナーから話をいただき、新作を発表して売上を上げるためでなく、私たちの会社のステージを上げて「100年先まで愛されるブランド」を作るための通過点として、出ることに決めました。
YouTubeで夢を持って生きることの素晴らしさを発信
銀座に出店し、最初の繁忙期を迎える時期にコロナが流行してしまいました。お店を出すたびに、何故か大変なことが起こります。もちろん、お客様は来なくなりましたが、お店を閉めてしまうと職人さんの仕事が本当に無くなってしまうため、工場が潰れたら再起不能になってしまうと思い、お店を閉めることはしませんでした。
そんな中でも、私は「ヴィクトリースーツ」を着るかどうかの選択を、日本中の人に人生で一度はしてもらいたいと考えていました。そして、自分自身が全国の人々にmuseを知っていただく努力をしているのかと考えました。経営者である以上、会社を成功に導くために必要なことはどんなことでも取り組まなければなりません。しかし、その時の私には努力が足りないと感じました。
そして、自分に何ができるかを考えた時、私にできることはスーツのハウツーを発信するだけでなく、夢を持って生きることの素晴らしさを発信することだと思い、You Tubeを始めることにしました。
ターゲットは27歳の女性にしました。それは「museのスーツの購入層ではなく、スーツを買えない人たちに向けて、このYouTubeを発信する」ということを決めることでもありました。
女性に対して、私が人生でつまずいたことや上手くいかなかったこと、それをどのように解決したのかを話しました。情報発信を続けていくと、ペルソナ通りの人たちが視聴者になってくれ、その結果新しい顧客層を獲得することに成功しました。
夢を共有するコミュニティプラットフォーム「ヴィクトリークラブ」とは
2016年8月に、ヴィクトリースーツを着た人全員が無料で入会できるコミュニティ「ヴィクトリークラブ」を立ち上げました。「人の夢を笑わない 心の才能を養う場所」それがヴィクトリークラブのスローガンです。
多くのお客様が夢を持ってお店を訪れる中で、museは単にスーツを販売するだけでなく、お客様の人生に寄り添うことを目指しました。また、「ヴィクトリークラブ」というプラットフォームを通じて、お客様自身が理想とする姿になっているかどうかを見守り続けることで、スーツを売ること以外でもお客様の役に立てると思って始めました。
私自身も起業当初は多くの方に支えていただきました。その経験から、同じ価値観や思いを持つ人を見つけることが大変だということは理解しています。私自身にとっても、夢を笑われた経験があるため、夢を共有できるコミュニティは、安心できる集まりなのです。そんなコミュニティですから、自分の夢を遠慮なく語ることができます。
20代前半の若者も参加してくれることがあり、私たちは彼らからも多くのことを学ぶことができますし、時には彼らが他のメンバーの会社に就職したり、ビジネスパートナーとなったりすることもあるんです。
また、私たちは、スーツの納品の時にヴィクトリークラブカードを発行していて、カードには名前と人生の目的地の2つだけを書いてもらいます。毎回の納品でそれを書くのがひとつのイベントになっているんです。私たちは全てのお客様のカードを管理していて、カードに書かれたお客様の人生の目的を社員全員で共有しています。
そうしたご縁があって、何か嬉しいことがあった場合にはお店に来ていただいたり、契約が成立したときや、逆に上手くいかないことがあったときにも連絡をくださるような関係性を築いていますし、それが商いの根本的な部分であると考えています。私は、自分以外の誰かのことを思う気持ちがビジネスになっていったと思っていますので、根本的な思いやりが薄れている現代社会において、孤独感を解消できる場所を作りたいと考えています。
さらに、私は単なるツールとしてのスーツではなく、ゴールになるようなお店を作りたいと思っています。例えば、成人式にはmuseのスーツを着たいとか、将来子供ができたらmuseのスーツを着せてあげたいとか、私たちのお店がそれを叶える場所になれたら、それが私たちのブランドになると考えています。
ヴィクトリークラブも、私たちのお店も、人々の人生に寄り添って商いの本質を体現している会社を作ることで、私たちのブランドを確立していきたいと思っています。
私にとってお店とは
私にとって、お店は第2、第3のホームのようなものです。家族のように、悲しいことや嬉しいことを共有できる場所であってほしいと思っています。社員やお客様、そして経営者にとってもそうであってほしいと考えています。
お店はみんなが交わる唯一の場所です。会社は人生の中で多くの時間を過ごす場所であり、時には家よりも長い時間を過ごすこともあります。だからこそお店は家のような存在であるべきで、私はお店を第2、第3のホームと思っています。