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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、投資家や起業家が集まるバーとして有名な「awabar」の経営者、小笠原治さんです。小笠原さんはawabarを経営するほか、モノづくりの場を立ち上げたり大学で教えたり投資事業をしたりと、マルチに活躍されています。小笠原さんのさまざまな仕事の話を聞くことで、小笠原さんの思考法や経営哲学について触れることができました。
小笠原さんのお話を紹介する2回目は、小笠原さんの「本業」である、awabarのことを詳しくお聞きしました。
この記事の目次
awabarのコンセプトはまったく違うものだった
awabarはいま、六本木の店に加えて、京都と福岡にも店があり、沖縄でも開店します。awabarのもともとのコンセプトは、六本木で、女性でも気軽に立ち寄れて、シャンパンやスパークリングワインなどの泡ものが飲める立ち飲みバー、というものでした。シャンパンなどの泡から名前を取ってawabarです。
開店当時の六本木には立ち飲みのバーはほぼありませんでしたし、シャンパンを飲めるのも、クラブやホテルのラウンジくらいしかありませんでした。そういうところではなく、気軽にシャンパンが飲みたいなということで、自分で店を出すことにしたのです。店を始めたものの、最初は、月の売上が100万円にも届きませんでした。後で聞いたことですが、アルバイトの人が、本当に売上がゼロだったら自分の働く場がなくなると思って、自ら飲み物を注文して飲んでいたらしいです。それくらい最初は厳しいスタートでした。
311をきっかけに経営に本腰を
これはちょっとまずいなと思っているところで、東日本大震災が起きました。311の当日は、帰宅困難者が休んだり、有線の電話が使えたり、テレビが見たりできるよう、夜中もずっと店を開けておきました。その経験もあって、チャリティをしたいなと考えて、それをTwitterで呟いたら、ネット業界の人たちから、自分も協力するという声が寄せられました。それで、お客さんの支払ったお金の50%をチャリティするイベントをやりました。
その頃から少しずつ、店の名前を知ってもらうようになり、僕自身も経営に本腰を入れ始めました。そして、1年間で200日くらいは店に入り、知り合いを1日5人、店に呼ぶまでは帰らないというノルマを自分に課して、集客を頑張りました。ベタな方法ですが、facebookやTwitterなどのSNSにも、店にチェックインしてくれたら1杯サービスということを書いて、集客しました。
経営の基本は、自分自身が店に入って、お客さんのことをよく知って、どれだけ自分で集客できるかだと思います。もちろん、来てくれたお客さん全員を、僕ひとりで対応することはできませんから、店長を筆頭にスタッフ全員が、お客さんのことを知った上で対応することも大事です。
いつのまにかネット界隈の人が集まる店に
そういうことをしているうちに、いつのまにか、awabarには、ネット界隈の人が集まる場所というイメージがついてきました。金曜日のawabarにはDMMの亀山会長がいるというのは本当の話で、コロナが始まるまでの金曜日は、たくさんの人が亀山会長目当てに来ていました。
亀山さんに限らず、実際にawabarで、投資家や起業家などが出会うことは多いのでしょう。でもawabarは出会いのきっかけを生んでいるだけです。その出会いから、本当にビジネスが生まれるかは本人たち次第です。
福岡での失敗
各地にあるawabarはフランチャイズでも直営でもなく、地域地域で、面白そうな人にお任せして、経営されています。ブランドのオーナーシップは僕が持っていて、守るべきルールはありますが、ロイヤリティは受け取っていません。
ただ、福岡で最初に出したawabarでは失敗しました。シェアオフィスをやっていた人に店を任せていたのですが、その人に、貸したお金を持って逃げられてしまったのです。どうやら、シェアオフィスの事業でお金に行き詰っていたようで、awabarを移転したいという名目でお金を貸してほしいと言われ、そのお金を貸した3週間後に、その人はいなくなってしまいました。
当時は、僕自身、ちょっとお金の使い方が荒く、お金を貸すときも、その人の状況をよく調べないまま貸すような状態でした。そんな自分自身を顧みるきっかけになった一件でした。
各地で性格が違うawabar
各地のawabarはそれぞれ、集まる人に特色があります。六本木はIT関係、京都は学生、福岡だったらスタートアップという感じです。京都のawabarは、京都信用金庫が立て替えたビルの1階に入っています。学生が起業した店で、大学生が集まれる店というイメージでしたが、開店してからずっとコロナ禍で、学生が学校に行くことも少ない時期だったので、ちょっともがき苦しんでいます。
ただ、そのビルにはシェアオフィスもあって、京都信金としては、投資家や起業家が集まるコミュニティを作りたいという狙いもあるようです。福岡のawabarは、「Fukuoka Growth Next」というスタートアップのインキュベーション施設の中にあり、スタートアップ関連の人達が集まりやすくなっています。
この施設はもともと小学校跡地なので、60年前にこの学校を卒業したというおばあちゃんも来てくれて、そういう人がスタートアップの人たちと交流しています。小学校のつながりで、awabarで同窓会を開いてもらうという使い方もあります。僕には、ネット事業をメインにやっている人、というイメージが強いかもしれませんが、起業当初から、シェアオフィスやバーの経営もしていました。とにかく僕は、空間や場を作ることが好きなのです。それに関する仕事をやって来て、その流れの中に、awabarもDMM.makeも朝ごはん屋さんもtsumuguもあるという感じです。
今回のお話はここまでです。次回の最終回は、awabarの経営ルールをお聞きすることで、小笠原さんの考える経営の本質が垣間見える回になっています。