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お店ラジオ 2021/12/22 2024/03/14

わかりやすさを求めない

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、投資家や起業家が集まるバーとして有名な「awabar」の経営者、小笠原治さんです。小笠原さんはawabarを経営するほか、モノづくりの場を立ち上げたり大学で教えたり投資事業をしたりと、マルチに活躍されています。小笠原さんのさまざまな仕事の話を聞くことで、小笠原さんの思考法や経営哲学について触れることができました。

小笠原さんのお話を紹介する1回目は、小笠原さんの幅広い活動から、それを貫く思考法についてお聞きしています。

 

この記事の目次

  1. 本職はバーのマスター
  2. 拠点が福岡になった理由
  3. いろいろな事業を始めるきっかけ
  4. 抽象からビジネスを考える
  5. わかりやすさを求めるな

本職はバーのマスター

僕はいま、awabarを経営するほか、ベンチャーキャピタルを運営したり、京都芸術大学で教えたりしていますが、本業はバーのマスターだと言っています。京都芸術大学では情報学科の教授として、クロステックデザインコースという自分のコースを持っています。大学で教えるようになって5年目で、いまコースにいる生徒は160人ほどです。

学生たちには、アートとテクノロジーについて教えています。アートとテクノロジーの語源は同じで、その領域は重なり合っています。合わせて、起業のために必要なことや自律的に生きるために必要なことも伝えています。学生からは起業する人も出てきています。京都のawabarを経営しているのも教え子ですし、シェアアトリエをやろうとしている人もいます。面白いところでは、綿菓子屋さんを事業承継した人がいて、その店の綿菓子を土産ものとしてリデザインして、伊勢丹などで売っています。

ベンチャーキャピタルでは、起業する人やスタートアップの人たちに、株と交換する形で資金を提供しています。いま一番力を入れている投資先は「tsumug」という会社で、そこでは空き空間をいろいろな用途で使うためのシステムを作っています。

そのシステムとは、空いている空間の出入り口をスマートロック化することで、たとえば、マンションの空き部屋をシェアオフィスやパーソナルジムとして利用するなど、さまざまな用途で自由に使えるようにして、その利用や決済も全部LINEからできるようにするというものです。ほかには、最近、代行運転のウーバーみたいなところにも出資しました。自分の車で飲みに行った人が、ウーバーのようなシステムで、代行運転者を見つけられる事業です。この事業は沖縄からスタートして、福岡でも始まっています。

 

拠点が福岡になった理由

僕のところには、いろいろな自治体から、スタートアップが生まれる町にするにはどうすればいいかと相談がきます。それに対して僕は、「スタートアップのことをよく知って、スタートアップにやさしい町になってください」とお答えしています。

福岡はそれができている町で、スタートアップにすごくやさしいです。高島宗一郎市長が2012年にスタートアップ都市宣言をして、スタートアップ企業への減免制度や、外国人起業家の在留資格となるスタートアップビザ制度を始めるなど、スタートアップを育てるための施策が充実しています。スタートアップビザは福岡を真似する形で、国やほかの自治体も取り入れるようになりました。

そんな福岡を象徴するのが、スタートアップをやりたい人が集まれる「Fukuoka Growth Next」という場です。ここではシェアオフィスやコワーキングスペースが安く借りられるほか、スタートアップカフェがあって、そこに行くと、起業のことでわからないことがあれば、全部教えてくれます。

こうした福岡の取り組みの源流には「明星和楽」というイベントがあります。それはスタートアップやアート、テクノロジーを全部混ぜたようなイベントで、もう10年くらいになりますが、そこからコミュニティも生まれています。そのコミュニティから、起業する人を大事にしようという機運が出てきて、それが高島さんに伝わってという流れで、いまの福岡の形になりました。

僕は高島市長に出会い、「これから福岡はもっと良くなる」と言われて、それならこっちで納税しようと、7~8年前に住民票を移し、事務所も移転しました。この1年半くらいはずっと福岡にいます。もう東京に行く理由が見つからなくなっています。東京に行く理由があるとすると、awabarに顔を出すためです。でも、コロナによる自粛要請が長く続いたため、店を閉めることが多く、最近はほとんど東京に行っていません。

 

いろいろな事業を始めるきっかけ

いまモノづくりをする人たちのためのプラットフォームになっているDMM.makeにつながる事業を立ち上げたのも僕です。スタートアップと言えば、最初はガレージですから、ガレージの大きい版として、いろいろな道具を揃えた場所を作りたいと思っていて、その考えを、awabarによく来てくれていたDMMの亀山敬司会長に話したら、「それ、DMMでやれば」ということになって、事業を始めることになりました。

最初は3Dプリンターの出力サービスから始めました。クリエイターの人がデータを預けておけば、それを出力して売れるというサービスです。次に、秋葉原に「場」を作り、そこがものづくりの人のための居場所みたいな感じになっていきました。また一時、六本木のミッドタウンのそばでやっていたのが朝ごはん屋さんです。当時の僕は、朝まで飲んで、昼過ぎに起きるという生活でしたし、六本木周辺には、昼夜関係なく仕事をしている人が少なくありません。そういう人たちにきっと需要があるだろうということで、いつでも朝ご飯を提供する店を始めたのです。

店を開くと、たしかに一定数の需要はありました。夜中に朝ごはんを食べに来る人がいたり、朝7時ぐらいに、パリッとしたスーツの人と酔いつぶれたホステスが並んで朝ごはんを食べたりしていて、とても面白い店でした。店には固定客がつきましたが、六本木の路面店で家賃が高い一方、客単価が1000円以下とだいぶ安かったので、見合わなくなって閉店しました。店を始める前に一応、シミュレーションはしましたが、朝ごはん屋さんのベンチマーク(指標)となるものが見当たらなかったので、ちょっと難しかったです。

このように僕はいろいろなことをやっていますが、やっているビジネスはたいてい、自分の中のこんなものがあったらいいなあという思いや、身近な人が欲しがっているから、というのが始まりです。

 

抽象からビジネスを考える

いまやっていて一番楽しいビジネスは、「tsumug」でやっていることです。tsumugには自分も取締役として入っていて、tsumugのビジネスをどう作り、広げていくかを、楽しみながらやっています。tsumugのやっていることは、「空間のDX」や「不動産のDX」と言えるものです。DXという言葉はいまよく聞かれますが、そのほとんどが1回デジタル化して終わりみたいな話ばかりです。本来はそうあるべきではありません。

僕がやっていることは、デジタルの力で変わり続けられる状態を作ることです。どういうことかというと、たとえば、ラジオの収録スタジオは、通常はラジオを収録していますが、スタジオの出入り口をスマートロックにして、スタジオの使い方が動画で説明されて、LINEで利用予約や決済ができるようになれば、たとえばユーチューバーなど、いろいろな人がいろいろな発想でスタジオを利用してくれるようになるでしょう。スタジオのオペレーターを予約して使えるようにすることも可能です。

このように、デジタルの力を使って、空間をさまざまな用途に変化させられるのが空間のDXで、いまやっていて一番楽しい仕事です。こういう空間としての場は、マンションの空き部屋でもいいし、飲食店でもいい。tsumugのシステムを通じて、さまざまな空間をさまざまな人がさまざまな用途で使えるようになればいいなと思って、いまやっています。

 

わかりやすさを求めるな

僕の思考法は、具体的な話ではなく、抽象的な話、概念的なところから始まることが多いです。個人的には、分かりやすいもの、具体的なものは、どうでもいいと思っています。具体的なことはほかの人に任せて、抽象化、概念化の方から考えるのが僕の役割です。ですから、抽象的思考が好きな僕が、起業を目指す学生に具体的なアドバイスをと言われても、「頑張って、楽しめ」ぐらいしかないです。ただ、教えている学生にいつも言っているのは、「わかりやすさを求めるな」ということです。

たとえばうちの大学では、授業ごとに改善アンケートがあり、その項目に、「授業はわかりやすかったか」というのがあります。ひどい質問項目だと思いませんか。だって、わかりやすい授業にいったいなんの価値があるのでしょうか。授業というのは、「わかりにくいけど、興味や関心が持てた」という状態がベストなはずです。なのに、授業にわかりやすさを求めるというのは、本当に「くそ」だと思っています。

「わかりやすいこと」は、「これだったら君たちでもわかるだろう」といって用意された答えでしかありません。それに、何かわかった気になると思考が停止しますそれは店をやっていても事業をやっていても同じで、何かわかった気になって思考停止をした瞬間が、失敗の始まりです。だから、学生たちには、わかりやすさに飛びつく人にはならないでほしいと、いつも話しています。

 

今回のお話はここまでです。次回は、小笠原さんの本業だというawabarのことについて、詳しくお聞きしています。

 

 

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執筆 真鍋 誠人

スマレジにて主にイベントマーケティング・コミュニティマーケティング・SNSマーケティング担当。スマレジユーザーのコミュニティ「アキナイラボ」の統括責任者をしており、店舗運営にまつわるヒント・コツを共有し相互発展していけるよう環境作りに日夜奮闘中。

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