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お店ラジオ 2025/06/26 2025/06/26

地域のコミュニティの場である銭湯


about

「お店ラジオ2」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFM・FM大阪で毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ2」で放送された内容を再編集したものです。

今回のゲストは、「銭湯を日本から消さない」という理念のもと、継業によって10軒の銭湯を再生し続ける 株式会社ゆとなみ社代表・湊三次郎さんです。

大学時代に銭湯文化と出会い、「銭湯を日本から消さない」という理念のもと、廃業寸前の「梅湯」を引き継いだことをきっかけに、10店舗を再生。経営・採用・設備・地域づくりまでを手がける取り組みや「銭湯活動家」として歩み始めた湊さんの挑戦と哲学について、3回に分けてお送りします。

第1回は、銭湯との出会いや「梅湯」の継業に至った経緯、経営の立ち上げ期の試行錯誤についてお送りしました。

第2回は、都湯の再生や店舗拡大の戦略、若手スタッフの育成やグッズ展開などの挑戦についてお送りします。

 

この記事の目次

 

銭湯は地域のコミュニティの場

昭和の時代、銭湯は地域のコミュニティの場でしたが、今でもその役割は続いています。お客様から差し入れをいただいたり、まちで声をかけてもらったりと、日常的なつながりが生まれています。

こうした小さなコミュニケーションが、地域との信頼関係づくりには欠かせません。最近では、サウナ・温浴ブームの影響で、さまざまな施設のTシャツやグッズを身につけたお客様も増えていて、そうしたアイテムをきっかけにコミュニケーションが生まれることもあります。

一般的な銭湯では接客に力を入れていないところも多いため、私たちが少しでも丁寧な対応をするだけでお客様の印象は大きく変わります。しかし、接客できるスタッフの採用・育成は簡単ではありません。銭湯業界では家族経営が多く、求人も少ないためです。

その中で、私たちの店舗は数少ない「銭湯スタッフ募集の窓口」となり、「銭湯で働きたい」「銭湯が好き」という若い世代が自然と集まる場になっています。ファッションやカルチャーに関心のあるスタッフも多く、アルバイトが自主的に「○○の湯新聞」を作成するなど、銭湯への愛情が活動の原動力となっています。

 

採用活動に苦労はしていない

現在、私たちの店舗では、採用活動に苦労はしていません。主にSNSで募集告知をしていますが、それだけでも十分な反応が得られています。直近では、バイト・正社員両方で30名以上の応募がありました。

銭湯や温浴文化に関心のある方々が、日頃から当店のSNSをフォローしてくださっているため、求人媒体を使うよりも、銭湯に親しみのある層に直接届く効率的な方法だと感じています。応募者には、もともとお客様だった方も多いですし、こちらから「一緒に働きませんか」と声をかける場合もあります。

また、将来自分で銭湯を経営したいという「独立志望者枠」も設けており、現在7名ほどがこの枠で働いています。現場での経験を将来に活かそうという高い志を持ったメンバーが多く、これも私たちの大きな強みになっています。

 

接客による差別化

私たちは「接客による差別化」を大切にしています。銭湯は公衆浴場として物価統制令により入浴料金に上限があり、サービスの質を上げても基本料金を引き上げることはできません。そのため、収益を拡大するには来客数の増加か付帯収入の強化が必要です。

同時に、私たちが力を入れているのは、物販による客単価の向上です。ただし、缶ジュースなどの既製品を高価格で販売するのは難しいため、オリジナルTシャツやステッカーなど、独自グッズの制作・販売を行っています。

現在はECサイトも運営しており、好調な月は売上が100万円を超えることもあります。背景には、芸大出身者やカルチャーに関心のあるスタッフの存在があり、彼らの力がグッズ開発を支えています。

グッズ制作は各店舗に裁量を与え、「これを作りたい」というスタッフの声に「いいね、それでいこう」と応えるスタイルをとっています。銭湯ユーザー向け物販の定番ヒット商品は、やはり「タオル」ですが、そのほかには、「ステッカー」や「Tシャツ」も親しまれやすいグッズで、グッズとしての相性も良いアイテムです。

 

ファンコミュニティを築くことの重要性

大切なのは、モノを一方的に売るのではなく、「自然と買いたくなる」「応援したくなる」関係性、つまり「ファンコミュニティ」をどう築くかです。

銭湯も元々、地域に根差した「常連客との信頼関係」に支えられてきた業態で、ある意味でファンビジネス的な要素を持っています。

「銭湯は他にもあるけれど、私はあそこに行く」と思っていただける背景には、施設や価格以上に、「店主が好き」「空間が心地よい」といった人とのつながりがあります。

現在、私たちは10軒の銭湯を運営していますが、単に数を増やすのではなく、地域コミュニティが根づく運営を心がけています。中でもユニークな取り組みを行っているのが、京都の「源湯」です。もともと住居だった2階部分をテナントとして開放し、古道具屋やギャラリー、雑貨店などが入居する「複合型銭湯」を実現。銭湯を超えた新たな交流空間として機能しています。

こうした取り組みにより、来客層は高齢者中心から20〜40代へとシフトしてきました。店舗づくりや情報発信に注力した結果、今では若年層が7〜8割を占めるようになりました。若年層の定着は、その家族や子どもたちにも波及していく可能性があります。

銭湯には、今も大きな将来性と可能性があります。これからも施設単体ではなく、「人を中心とした場づくり」を軸に、豊かな温浴文化を育てていきたいと考えています。

 

2号店への挑戦

京都の大学生だった頃、銭湯巡りに夢中になり、その中で出会ったのがサウナ付きの銭湯「梅湯」でした。何もわからないままこの梅湯を引き継ぐことになり、紆余曲折を経てなんとか運営を立て直しました。梅湯が軌道に乗った頃、「ここで培ったノウハウが他でも通用するのか」を確かめたくなり、2号店を探し始めました。

そこで出会ったのが、滋賀県大津市の「都湯」です。2年休業しており、観光地でもない完全なローカル立地。サウナはあるものの、ごく小さな銭湯でした。

この場所で成果を出すことができれば、3店舗、4店舗と続けていけるはずだと考えました。さらに、「店舗を誰かに任せて運営する」というチャレンジもしてみたくて、2号店として「都湯」を引き継ぐことを決めたのです。

 

集客に取り組む銭湯の姿勢

2年間も閉まっていた「都湯」は、ゼロから全面修繕が必要で、初期費用は1,000万円ほどかかりました。ボイラーは完全に故障しており入れ替えが必須、ロビーの改装も実施しました。配管も実際に水を張って湧かしてみないと漏れが分からず、稼働しながら修繕を進める必要があり、多くのコストがかかりましたが、「ここで再出発しよう」と腹をくくりました。

他にも「買うなら譲る」と声をかけてもらった銭湯はありましたが、資金面や距離のバランスから「都湯」に強く惹かれました。ここで「梅湯」のノウハウが本当に通用するのか試したかったのです。

「梅湯」での経験は、「お金をかけずに集客する」ことでした。高額な広告や改装ではなく、地道なポスティングや地域への情報発信を積み重ね、お客様を少しずつ増やしてきました。

かつての銭湯業界は、暖簾さえ出せばお客様が来る時代でしたが、今は銭湯側が「集客に取り組む姿勢」なしでは成り立たない。「都湯」でもその考えを貫き、それが形になったことは大きな自信になりました。

 

「ひと押し」がつくる、銭湯との出会い

ポスティングをすればお客様は来てくれます。それは単に銭湯の存在を知られていない、あるいは知っていても風景の一部になってしまっており、訪れるきっかけがないからです。

だからこそ、「こんなお店です」と伝えることが大切で、店の情報を知ってもらうだけで心理的ハードルは下がります。そして、一度来てくれた方をがっかりさせないよう、最低限のおもてなしを整えておくことがリピートにつながります。

私は、ただ番台で座っていてもお客様は来ないと思っていいたため、オープン当初は店の前に立ち、「お風呂どうですか?」と声をかけたり、立て看板を持って街を歩くなど、とにかくできることは何でもやりました。「街に出て存在を伝える」ことが大切だと考えていました。

これは飲食店でも同じです。少し声をかけるだけで反応は大きく変わります。「どこでもいい」と歩いている方に「一度行ってみようか」と思ってもらう。その一歩が、「ここ、いいな」という気持ちになり、リピートにつながるのです。

第2回は、都湯の再生や店舗拡大の戦略、若手スタッフの育成やグッズ展開などの挑戦についてお送りしました。

第3回は、設備支援やロビー改修、地域コミュニティづくり、そして「銭湯活動家」としての使命についてお送りします。

 

執筆 アキナイラボ 編集部

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